てぃーだブログ › 「癒しの島」から「冷やしの島」へ › アソシエーション › 沖縄アソシエーショニズムへ 37

2010年02月09日

沖縄アソシエーショニズムへ 37

沖縄の地域自治組織の成り立ち

6日(土)はシンポジウム「地域自治組織の現状と課題! ~調べてみて、こんなに独特、いろいろ創意工夫、沖縄の自治会~」が南風原町文化センターで行われた(主催は琉球大学国際沖縄研究所・沖縄自治研究会)。沖縄自治研究会メンバーによる調査報告・事例紹介が主な内容で、同時に発行され配布された2009年度「自治講座:私たちが創る、沖縄の自治」最終報告書に準じている。以下数回にわたり同報告書の内容を紹介し、自分の関心領域を加え批判・吟味を試みる。

今回の活動テーマについて、同会の世話係である島袋純は巻頭の「ごあいさつ」で《沖縄の地域と自治における最重要な課題》と位置づけている。それは島袋の次のような問題意識から導き出されている。

それは、地域自治組織、すなわち、自治会、自治公民館などと呼称される住民自治の組織についてである。詳細は本論に譲るが、民主主義のもっとも基礎の基礎、住民みずから公共的な課題解決に取り組み自ら治めていくという「自治」のもっとも基礎であるはずの組織において、あまりにもそれが組織できていないという点と、おそらくそれが実現できない限り、市町村の自治、県レベルの自治、引いては民主主義的な国政の主体、主権者も育つ土壌がない、という点が、明らかになったもっとも重要な点であろう。

これは行政学者としての島袋の理論と実践の根幹を述べているといってよい。基地があろうがなかろうが、振興策で金が入ろうが入るまいが、《住民みずから公共的な課題解決に取り組み自ら治めていく》ことをしなければ、これまで以上に沖縄の主体性は奪われ続け、自治は崩壊するという。自治は崩壊するという言い方が抽象的だとすれば、要するにこういうことではないか。政治的、経済的、法律的、文化的、環境的、その他あらゆる局面において、今以上に深刻な、半端でない負の遺産を沖縄は背負っていくことになる、しかもそれは自分たちが半ば招いた事態であると。

そのような危機的な状況を察知したときこそ、人は自らの泉を掘るべきである。沖縄には独特の自治会、自治公民館という住民自治の組織があるではないか。

しかしこれらは沖縄の人びとにとって、いささか古式で超既視の風景といえる。だが、知っているつもりで実はほとんど何も知らないに等しい。学術的な調査対象としては、社会学、文化人類学、民俗学、歴史学などの蓄積はある。しかし地域自治という極めて実践的な観点からのそれはほとんどなかった。それならば、改めて一から調査してみよう。

島袋は「序章 沖縄の地域自治組織の成り立ちと今」で、その機能として以下の3つを挙げることから始めて、地域自治組織の変遷を概観している。

第一 御嶽(うたき)や拝所(うがんじゅ)を共有し部落の構成員共通の祖先神を祭る行事や、五穀豊穣を祝う祭事など、歴史文化的あるいは民俗的な伝統的文化的行事の継承の側面
第二 統治の末端としての行政的機能の側面
第三 構成員の平等性に基づく相互扶助や住民の水平的な合意形成と協働による地域課題解決の機能を有する側面

ところで、この3つには権力性が潜んだ緊張関係があると島袋は鋭く指摘している。

神官と追従者あるいは村役人になったものと取締りを受ける一般の村民との間には上下関係が生じざるを得ない。したがって、第一の機能及び第二の機能と第三の機能の間には、緊張関係がある。しかし、明治まで続いた構成員の耕作地の平等な再配置を行う「ユイマール」が強力な相互扶助のように伝えられ多用されたり、「沖縄は地域のつながりが強い」とか、「共同体が強く残っている」という言説など、この第三の機能の強さが仮定されていると考えられる。しかし、はたしてそれは、幻想以上のものであろうか。

つまりは、宗教的(伝統的文化的)なものが実は政治的であるということ。さらに、「ユイマール幻想」とは、互酬制に基づく共同体内の働きを過度に強調したものであるということ。なぜ強調されるかといえば、《緊張関係》を覆い隠すためだ。ここでは明示されていないが、共同体に緊張関係を強いるのは、それが外部に対する局面においてそうなる。神官とは神という外部との交換を司る媒体(media)である。村役人とは共同体の上位にある国家の代理・表象(representation)である。では、誰が覆い隠すのかといえば、まずは国家が共同体を略取―再分配し易いようにそうする。さらに共同体の成員がそれを内面化してそうする。

さて、島袋の分析によると、琉球王国時代はこの3つが渾然一体となり不可分の状態としてあったが、明治のいわゆる「旧慣温存策」以降、統治の末端機構としての役割が終わり、相対的に残された第一の側面と、第三の側面が新たに増加し強調されるようになったという。そしてこの時期に「共同売店」など独自の自治組織が生まれた。

地域自治組織は戦後、さらに多様化する。これを一様に「沖縄の自治組織は・・・」と簡単にいうことはできそうにない。それが今回の調査初期段階で分かった。報告書では離島を含めた複数地域の自治組織のあり方が報告され、それぞれ興味深い。ここではそれらをいちいち紹介する余裕がない。ぜひ報告書を手にとって目を通していただきたい。県内の各大学図書館、調査対象市町村の公立図書館に配布される予定とのこと。

沖縄アソシエーショニズムへ 37

次回はその独特の形態をもつ自治公民館について、引き続き島袋純の考察を紹介する。





同じカテゴリー(アソシエーション)の記事
放射性廃棄物の行方
放射性廃棄物の行方(2011-04-01 23:57)

放射性廃棄物とは
放射性廃棄物とは(2011-03-29 20:54)

プルトニウムとは
プルトニウムとは(2011-03-29 01:51)


 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。