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2017年02月06日

『未来食堂ができるまで』小林せかい

『未来食堂ができるまで』

 未来食堂のコンセプトは、「あなたの『ふつう』をあつらえる」だという。通常のメニューに加えて、希望する材料を使ったり、気分や体調に合わせたおかずを「あつらえ」として提供する。その具体性の裏には、「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所を目指す」という深い思想がある。

 さらに驚くべきは「まかない」制度である。スタッフに提供するまかない飯のことではない。50分手伝いをすれば、1食無料提供がある。金がなく、食に事欠く人のために設けられた。実際は、たんに食事代を浮かしたいから利用する人も中にはいるだろう。いちいちその動機を確認することはしないのだから。それでいいのだ、と代表はいう。そのユルさ、寛容さがあるからこそ、他の誰かに1食をプレゼントすることもできるという無償性も生まれる。

 ここまでくると、コミュニティや居場所を作ろうとしているのではと思いたくなるが、そうではないと著者はいう。あなたがどこかのグループの一員である必要はなく、「ただ来て、ただ座って、ご飯を食べていたらそれでいい」(208ページ)のだ、と。

 ところで、本書の冒頭で、未来食堂を思いつく原点を振り返り、著者はそれが「人と共にいる」こと、「それが食卓である」こと(15ページ)を実感した経験について、語っている。「人と共にいる」「食卓」であるのにコミュニティではない場とは、一見矛盾しているように思える。それはこういうことではないか。贈与に対しお返しが求められる互酬性の交換には「自由」がない。「誰もが受け入れられ誰もがふさわしい」=「平等」のみならず、「自由」という交換の場を創出したいのだ、と。だから、それは必ずしも「食堂」(飲食店)である必要はなく、いずれ別のかたちに発展していくことを、著者は早くも見据える。

 でも、そんな場所はまだない(準備段階から開業までをブログで綴った本書内容の段階では)。だから「未来食堂」なのだ。

 抽象論に走ってしまったが、本書は飲食店経営のリアルな手引書として、何よりも有効である。事業計画書、月次報告、まかないガイドなどの公開は必読である。徹底して効率的なオペレーションを追求してこそ実現可能な「あつらえ」や「まかない」であることは押さえておきたい。

『未来食堂ができるまで』
著者:小林せかい
発行所:小学館
発行年月:2016年9月14日



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