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2017年02月27日

『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』「未来食堂」店主 小林せかい

『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』「未来食堂」店主 小林せかい

 1日1メニュー、まかない、ただめし、あつらえ、さしいれといった、シンプルで「懐かしい」定食屋の開業準備からオープンまでを綴ったブログを一冊にした前著『未来食堂ができるまで』に続いて、その後飲食店として実際どうなっているのだろうという素朴な疑問に答えてくれる第二弾。しかし、もちろんそれだけではなく、店主の独自の「思想」が、お店が稼働する日々につられて馴染んでくるような説得力を読む者に与える。

 ”まかない”というお客様でも従業員でもない”第三の立ち位置”。1度以上客として来店した人に限る。働き方の多様化として、店主にとっては理がある。

 「お金がない人」を救うこと自体をシステム化したのが”まかない”だ。金銭的に苦しい人を受け入れるのが真のねらいだが、実際どんな人なのだか尋ねることをしないのでわからない。無理に何かを話さなくても良い、ただ暖かいご飯を食べてほしい。飲食店開業の修行として来ているまかないさんに受け継いでほしいのは、”人を受け入れる姿勢”だという。

 50分のまかないをすると1食分のただめし券がもらえる。もちろんその人が利用してもいいが、券を壁に貼っておくと、他の誰かが利用できる”ただめし”。でもそれは、50分の労働=900円(定食代)という貨幣の等式ではないと、店主は強調する。「貨幣のトンネルをくぐらないあり方」が面白い、と。

 ただめし券に名前はない。誰かがまかないをした日付が記されているのみ。施す側と施される側が対面しないことで、むしろ想像力が増す螺旋形のコミュニケーションは、コミュニティや善意の押しつけに対するアンチテーゼでもある。

 ”あつらえ”については一言しておいたほうがよいだろう。実際私も来店して確認したが、それが目的で来るお客さんが多いだろうから。あつらえを店の売りにしていることと矛盾するが、実際はあまり行っていないという。あつらえは、相手の”ふつう”を受け入れるための、いわば非常口のようなもの。ところがメディアで報道されたことで、それを「体験」するのを目的に来る人が現れ、本来の趣旨とズレが出てきてしまった。メインに3種の小鉢がついたバランスのある定食で満足しているのであれば、無理に非常口を使う必要はないというのが店主の思いである(実際はオーダーしてくれた方がその分売り上げは上がるはずだが)。

 〈第3章 見たことがないものを生み出す力〉では、思いついたアイデアを実際にかたちにするためにはどうしたらよいかが解説されている。従来の「コンセプト=課題解決」という起業のノウハウとは異なり、ユニークかつオーソドックスでもあり、本書の興味深い各章の中でも白眉といってよい。ぜひ本書を手にとって読んでいただきたい。飲食店開業を準備している人だけでなく、なにか新しいことをしてみたいが一歩踏み出せないでいるあなたやわたしにも。

『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』
著者: 小林せかい
発行所:太田出版
発行年月:2016年12月17日


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