『境界文化のライフストーリー』桜井厚
滋賀県琵琶湖東側の被差別部落地域への生活史調査である。
「境界文化」とは、被差別部落の生活が、国家、官僚、大企業などの支配的文化の制度や規範から自由であるだけでなく、それらに抵触し、矛盾し、侵犯し合うことがある「生活の論理」を持っていることを指す。
それを描くには、研究者によるのではなく、人びとのライフストーリーによって、その歴史観や社会観から語ってもらうしかない。だから、研究者のライフストーリーと人びとのライスストーリーは明確に区別して記載されるべきだと著者はその理論的立場をのべる。だが、その部分に付された注を読むと、「筆者である〈私〉のポジションはどこにあるのかという大きな疑問は残されている」とある。つまり、その立場に揺らぎもみえる。
水利用の優先権、人力車売り、目にかけた女性を仲間数人で「拉致」しなし崩し的に夫婦になってしまう〈はしり〉などなど、語られる「生活の論理」はどれも興味深い。
それらの語りと調査者=著者の地の文が交互に記される。それらはお互いに関連しているので、確かに〈私〉のポジションを特定するのが難しい。それを意識しながら読み進める作業は、生活史の読み方を習得するまではしんどいかもしれない。
『境界文化のライフストーリー』
著者:桜井厚
発行:せりか書房
発行年月:2005年1月30日
2019/08/11
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2019/08/10
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