『抵抗の轍 アフリカ最後の植民地、西サハラ』新郷啓子

24wacky

2019年12月16日 19:22



 内容が一目でわかるタイトルと、そのタイトルを写実的に現すように、刻印される轍の陰影が美しい砂漠の黄褐色と地平線で区切られる空の蒼色のコントラストに惹かれる。次の瞬間、アフリカに「最後の」植民地があることを知ろうとしない私は不意を突かれ、頁をめくる(装丁はパフォーマンス・アーティストのイトー・ターリによる)。

 西サハラはそれまでのスペインからの支配が終わるやいなや、1975年北の隣国モロッコに侵攻され、以来今日まで植民地支配を余儀なくされている。長大な砂の壁で隔離された占領地と、支配を逃れた人々が隣国アルジェリア領土内に築いた難民キャンプの二つに分断されて。

 本書では、西サハラには水産資源(たとえばタコはモロッコ産として日本に輸入されている)とリン鉱石という地下資源があること、モロッコによる実績作りの支配が国連をはじめ国際的に認めらていないにもかかわらず続く「国際正義と占領支配」の対立がある経緯、そしてモロッコのゴリ押しを成り立たせるフランスとの関係などが分かりやすく解説される。

 読み応えがあるのは、それにもかかわらず抵抗の意思がブレないサハラーウィ(サハラの人々)の力強さと、その生活ぶりを記す著者の真摯なまなざしである。そもそもが遊牧民族であったサハラーウィによる難民キャンプ生活の生命力(トゥイサと呼ばれる共同作業など)には勇気づけられる、オリエンタリズムが潜む自らの読みに警戒しながらも。

 本書の発行は、西サハラ問題についての情報が少ない現状において大きな価値がある。パレスチナ(イスラエル)問題をかろうじて知ることができたように、植民地構造という世界を共に生かされている私たちを、それは知ることでもあるのだから。

『抵抗の轍 アフリカ最後の植民地、西サハラ』
著者:新郷啓子
装丁:イトー・ターリ
発行:インパクト出版会
発行年月:2019年11月30日

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