『砂上の同盟』

24wacky

2009年10月27日 22:58

「仮に、九州でも北海道でも日本政府が訓練場や必要施設を用意すれば、海兵隊はそこへ移ることは可能ですか」
「イエス。沖縄でなくても構いません」

時は同時多発テロ翌年(2002年)、場所はホノルルにある米国防総省シンクタンク主催の会議。質問したのは沖縄タイムス記者である著者、答えたのは、沖縄駐留の地上戦闘部隊を指揮していた海兵隊司令官。

この後2005年、「テロとの戦い」、グローバルな課題等防衛政策の見直しを盛り込む米軍再編が協議され、日米間で「合意」された。その中で「抑止力の維持」と米軍基地を抱える地元の「負担軽減」が謳われ、普天間飛行場移設(代替施設としての辺野古新基地建設)、そしてそれとカップリングされた海兵隊のグアム移転を目玉とした在日米軍基地の整理縮小等が列記される。

しかし、そもそもなぜグアム移転は可能なのか?普段から沖縄の基地問題を報じようとしないメジャーメディアもこの大変革ばかりはさすがに無視できなかったものの、「沖縄の負担軽減」ばかりがやたら恩着せがましく、海兵隊削減を可能にした戦略の変化や軍事的合理性について解説しようとしない。中国や北朝鮮を威嚇できる地政学的重要性を動かしがたい「常識」としてきたくせに。

本書は「反基地がポリシーではない」という著者のシンプルな疑問、在沖海兵隊グアム移転の謎、その合理的理由を知りたいという動機を機軸に進行し、その途上で徹底した丹念な現地取材の成果が披露され、やがて謎が解明されるというミステリーを読むような快楽も得られる。「謎」は拍子抜けするようなものだが、ネタバレを防ぐ意味でここでは記さない。ぜひ多くの日本人(新政権の首脳を含む)に手にとってもらいたい。

ただ一言だけ述べるなら、グアム移転は海兵隊自身が望んだものではない、つまり軍事的理由ではないということだ。では誰が望んでいるかといえば、第一に私たち「日本人」が望んでいるのだ。国内の他のどこかに移転すると決めたとき、日本中が大混乱に陥る。日本政府はそれを避けたい。それに着手する勇気が無い。翻ってそれは日米同盟を危ういものにする。アメリカはそこまで見透かした上で、再編内容を協議しただろう。

「普天間飛行場の移設先は少なくても県外へ」(沖縄ビジョン)、そしてそれよりトーンダウンした「米軍再編の見直し」(衆院選マニフェスト)を掲げた民主党政権に対して、「唯一実現可能な案」として現行案の遵守を求めに来日したゲーツ米国防長官の恫喝の背後にも、その見透かしがあることを我々は見なければならない。

本書を読めば「唯一実現可能な案」が軍事的理由からいっているのではないことが読みとれる。つまりそれは政治的理由から提案されている。政治的理由は我々市民が政治参加することによって変えることができる。政治参加は選挙だけではない。当然「地元」沖縄では声を挙げるだろうが、誰よりも行動すべきは、「唯一実現可能」たらしめている「日本人」ひとりひとりであることを強調したい。



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