『一瞬の夢』
27歳のジャ・ジャンクーによる長編デビュー作といえば俄然興味がわく。グローバル資本主義に対し開放政策をとる中国社会の変化とそこで生きることの有り様を撮り続ける作家は、そのはじまりにおいて、自我と対象との距離の取り方をどう処理したのか。
主人公の小武(王宏偉)はスリの常習犯であり、その振る舞いには虚無感が漂う。空虚な生活から抜け出せない日々を送り、かつてのスリ仲間ヨンの世俗的な成功を横目で見るしかない。小武はカラオケバーで知り合ったメイメイとの出逢いによって、希望を見出しかけたが、スリの現行犯で逮捕され、メイメイとも会えないというのがあらすじといえばあらすじである。
王宏偉が演じる小武は確かにどうしようもなく虚無的なのだが、そして他者との関わり方が無骨極まりないのだが、相手に関係をもとうという確かな意思があり、それが相手にも伝わることがある。メイメイがそれを受け取った。小武のこのキャラクターについて、ジャ・ジャンクー自身の次の言葉には説得力がある。
しかし、小武は違うんです。彼は昔からの価値観を持った人間だから、結婚式に呼ばれていなくても、ヨンと直接向き合わなければならない。信じていた友だちに対して顔を見なければすまないというのは、 とても勇気がいることだし、近づこうとする気力というか、切迫したものがあると思います。それからメイメイに対しても、家まで訪ねていって彼女と向き合う。 あそこはすごい長回しで撮ってるけど、あのあえて訪ねていく、面と向かおうとするところに切迫感がある。
ジャ・ジャンクーインタビュー01
『一瞬の夢』
監督:ジャ・ジャンクー
出演:王宏偉
1997年作品
劇場:キネカ大森
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