なぜ日本は原発をやめないか

24wacky

2011年03月27日 23:03

引き続きNAM環境系MLへの投稿過去ログから。

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 『原子力発電で本当に私たちが知りたい120の基礎知識』 
広瀬隆 藤田裕幸著(東京書籍 2000年)


第一章「もし原発を停止したら」をまとめました。
レポートのテーマは「なぜ日本は原発をやめないか」です。

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なぜ日本は原発をやめないか

九十年代以降、原発廃止が世界的潮流であるにも関わらず、日本は新たにその灰色の城を建設しようと企んでいる。東海村JCOの事故を体験した後となっては、三重県芦浜原発、新潟県巻町など原発建設に対して、住民の激しい拒絶にあうのは至極当然のことであるが、それでもまだ、悪知恵を働かせて、あの手この手でこの国は原発にこだわろうとする。それはどのようにして、そしてなぜなされるのか。

日本の原子力産業は、電力の三分の一を占める原子力を止めたら大規模な停電が起こり、電力総需要は増加の一途を辿っているので、原発を増設し続けねば供給が追いつかないと主張する。が、これは言葉のトリックである。電力の三分の一云々は年間総需要について言えることであり、実際どれだけの発電所を建設すれば電力が足りるかを決めるのは、年間総需要ではなく、年間最大電力である。電力は貯蔵が困難なエネルギーであるため、生産された電力は同時に消費されなければならない。さらに変動する電力需要に応じて生産されることをも要求される。ゆえに、原発を止めるとどれだけの電力が不足することになるかを論じるには、年間でもっとも大量に電力を消費するその瞬間にどれだけの電力の過不足が生じるか、という論点でなければ正しくないわけだ。

猛暑の続いた二〇〇〇年の夏、東京電力の十七基の原発のうち七基が、事故や定期検査のため停止していた。それでも停電はしなかった。さらに、これに揚水発電の設備容量を加えるならば、真夏のピーク時に原発を止めてもまだ100万キロワットの余力があり、そのことはつまり原子力のすべてが過剰設備であることを意味する。大規模な停電など起こりようはずもない。なのに、何故、どのように原発の発電量は多くなるのか。

原発は巨大なシステムであり、原子炉の出力や冷却水の温度や圧力などが全体として微妙なバランスが崩れると、大事故を起こす危険性があるため、出力や需要に応じて自由に変動させることができない。そこで、原発は深夜最小電力以下の電力の供給にしか使うことができない。この深夜最小電力以下の電力を「ベースロード電力」と呼ぶ。《昼夜を問わず消費し続けるベースロード電力は原発が、昼間の変動する部分(ミドルロード電力)は主に火力発電が電力を供給し、夏の鋭いピークロード部分は水力発電が電力を供給している。》(31ページ)

ここから「日本の電力の三分の一が原子力」説が見事に導き出される。しかし、それはあくまで運用のやり方であり、原子力を火力に変えても、火力を七〇パーセント程度上げればそれで済む。それでも火力には余力が残っている。故に、年間の総電力需要の観点からも、原発は不要な過剰設備といって構わない。そもそも、この三段階の役割分担から見ても、電力会社が盛んに宣伝している、原発を増やせばその分火力が減らせるので、炭酸ガスの発生量を減らすことができるという説には正当性が無い。

原発を増設するためには、深夜電力の消費量が増加されねばならない。これが「深夜の安い電力を利用する」という言葉の裏に隠された本当の理由である。そしてそれらは実行された。まず、深夜料金の大幅値下げである。だが、これだけでは不十分だ、ということで以下の三点セットを試みた。すなわち、電気温水器・電気自動車・エコアイス。

電気温水器はエネルギー効率がきわめて悪い。無駄な電力の消費を奨励しているようなものだ。電気自動車は、実は普通の自動車より炭酸ガスの発生量が多い。排気ガスを直接車から出さずに発電所から出すからだ。その深夜電力の主役はもちろん原発である。エネルギー効率の点からも、環境負荷の点からも手放しで推奨するわけにはいかない。そして最後に、エコアイス。深夜に水を氷点下まで冷やし氷にして、それを昼間に溶かし冷房で使う。経済効率が良くてもエネルギー効率が素人目にも良くないものが「エコアイス」などと名乗って宣伝されている。かなり無理がある。しかし、これらだけでは更なる原発増設には充分でないと判断した電力会社、政府は、より一層無理のある、決定的にグロテスクな悪巧みを考えついた。それが揚水水力発電である。

揚水水力は~上流側のダムだけではなく、発電所の下側にもダムを作って水を溜めておき、深夜の余剰電力で下のダムの水を上のダムに汲み上げる施設である。《つまり、深夜に一〇〇万キロワットの電力を使って水を汲み上げ、これをふたたび落として発電すると六十五万キロワットの電力に転換することができ、三十五万キロワットの電力を自動的に゛消費”することができる施設ということである。》(42ページ)

まさに大量の深夜余剰電力の垂れ流し状態と言える。これほどまでにして、森を壊し、水を汚し、原発にこだわる、なにゆえの理由があるのだろうか。そしてそういう輩に対抗する手段とはいかなるものが可能であろうか。

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