プルトニウムとは

24wacky

2011年03月29日 01:51

引き続きNAM環境系MLへの投稿過去ログから。

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 『原子力発電で本当に私たちが知りたい120の基礎知識』 広瀬隆 藤田裕幸著(東京書籍 2000年)

第2章 核燃料サイクルと放射性廃棄物の行方


15 原子力発電の原理

 原子炉で使われるウランには、ウラン235とウラン238の二種類がある。 ウラン235に中性子が衝突すると、原子核が分裂して熱を出す。これに対してウラン238は、中性子が衝突してもほとんど核分裂せず、中性子を吸収すれば短時間でプルトニウム239に変化する性質がある。そのプルトニウムに中性子が衝突すると、やはり原子核が分裂して熱を出す。

 これらの熱を利用して蒸気をつくり、タービンを回すのが原子力発電の原理である。

(地中から採掘される「天然ウラン」の中には、「核分裂するウラン235」がわずか0.7%しか入っていない。そのため核分裂する0.7%の部分を取り出して集め、濃度を3~5%まで高める。この作業が「濃縮」である。)


16 プルトニウムと高速増殖炉

 残りの99.3%を占めるウラン238に、原子炉の中で、核分裂からでる中性子をぶつければプルトニウムに変わる。この原理を応用しようとしたのが、資源を増やすという「高速増殖炉」である。

 日本で計画されてきた高速増殖炉「もんじゅ」の場合、中心部にプルトニウムを20%前後に濃縮したウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)を入れておき、その周囲にウラン238を配置し、高温度の金属ナトリウムをどろどろの液体として使う。

 中心部のプルトニウムが核分裂しながら、その熱をナトリウムに伝えて発電エネルギーとし、一方、核から飛び出した高速度の中性子がナトリウムの中を走り、これを周囲のウラン238に捕獲させる。こうしてウラン238がプルトニウム239に変化する。消費されたプルトニウムより、新しく生まれたプルトニウムの量が多ければ資源は増殖するということになる。

 こうした(資源を増殖できるとする)考えから第2次大戦後、「原子力の時代」が大いに宣伝されたのであり、まず、ウランを燃料とする原子炉でプルトニウムを生産にすることに力が注がれることになった。


17 プルトニウム増殖の具体的シナリオ

 ウランを燃料に使う原子炉では、水中で高速中性子を走らせ、スピードを落とした中性子(熱中性子)を使う方が、ウラン235が核分裂しやすい。原子炉の中にある水の役割は、「中性子の減速と、燃料棒から熱を奪う冷却」を兼ねている。このように普通の水を使う原子炉を「軽水炉」といい、2000年時点で運転されている日本の商業用原子炉51基は、全て軽水炉である。

 ウランが核分裂を続け、燃料棒が放射性廃棄物によって危険な状態に近づくと、大体1年に1度、原子炉を止めて、3分の1~4分の1の燃料を交換する。こうして取り出された使用済み核燃料の中には、すでに1%程度のプルトニウムが蓄積されている。その使用済み核燃料を、硝酸と爆発性有機溶剤を用いて科学的にウランとプルトニウムを取り出し、精製するプロセスを「再処理」という。

 「原発」のウラン原子炉におけるプルトニウム生産→「再処理工場」におけるプルトニウム抽出→「高速増殖炉」によるプルトニウム増殖。

 この再処理技術の確立と、取り出したプルトニウムを燃やす専門の原子炉「高速増殖炉」、この二つの技術開発が、戦後の原子力の技術開発の真の目的であった。しかし、現在では、再処理はアメリカ、ドイツが撤退し、増殖炉はアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスが、いずれも開発に失敗して断念してしまった。(2000年現在では、イギリスとフランスが、かろうじて再処理工場だけを運転しているが、この両国ともプルトニウム増殖という当初の目的を失ってしまったので、もはや再処理工場も、閉鎖は時間の問題と見られている。)

 日本は、1995年に高速増殖炉「もんじゅ」がナトリウム火災を起こして運転を停止し、電力業界でも絶望的と見られるなか、「2005年に再処理工場の操業開始」の看板を掲げて、未だに計画が断念されていない。


18 世界が高速増殖炉に失敗した理由

高速増殖炉の無数の危険性

1)燃料のプルトニウムは耳掻き一杯で数万人を殺戮できるほど毒性が大きく、プルトニウム239は放射能が半減するまでに、2万4千年を要するほどである。

2)プルトニウム燃料は、ウランに比べて中性子を吸収しやすく、そのため核暴走が起こりやすく、核暴走のスピードも大きい。しかもこのような核暴走に対して、増殖炉では制御棒の他に対策がなく、軽水炉に備えられている緊急炉心冷却装置(ECCS)さえ持たない。

3)アメリカの高速増殖炉では炉心融解事故を2度も起こしているが、わずかでも炉心融解が起これば、プルトニウム濃度がその部分で高まり、急速な臨界反応によって原子炉が原爆化する可能性がある。

4)燃料から熱を奪うために使われるナトリウムは、金属パイプの壁1枚を隔てて、発電用として水蒸気を発生させる水と隣り合っている。ナトリウムは、水と反応して爆発炎上し、高温では空気とも反応して炎上する性質がある。さらにナトリウムは腐食性が大きいので、配管事故が起こりやすく、伝熱パイプに亀裂が生じたり破損すれば、たちまち爆発に進展する可能性が高い。

 このようなナトリウム漏洩または噴出事故が起こった場合、大量の高温ナトリウムと水分および空気との直接反応による爆発的火災だけでなく、周辺構造物のコンクリート中の水分と反応して水素が発生し、コンクリートがミサイル状態で飛散して大事故をまねく可能性も高い。

 フランスではナトリウムへの空気混入事故が起こり、ドイツではナトリウム火災事故が頻発し、高速増殖炉を断念するに至った。

5)軽水炉の水蒸気温度がほぼ300度でるのに比べて、高速増殖炉ではナトリウムが500度以上、水蒸気温度も500度近い高温である。また、伝熱パイプの内側と外側の圧力差は、130気圧と極めて大きい。

 このように、高温・高圧の厳しい条件にさらされているため、ごくわずかな金属欠陥があるだけで大事故を誘発しやすい。

6)日本の原子力産業は、茨城県大洗町にある増殖炉の実験炉「常陽」が事故を起こしていないことを安全の論拠としていたが、発電しない「常陽」には、ナトリウムから水に熱を伝えるもっとも危険な蒸気発生器部分がないため、その実績は安全の根拠としてほとんど意味を持たない。


19 高速増殖炉のコスト

高速増殖炉(原型炉)「もんじゅ」--電気出力28万キロワットの発電用を兼ねた原子炉--の場合。
 当初の計画では建設費360億円であったものが、95年12月8日のナトリウム火災事故発生までに約16倍の5900億円に膨らんだ。(直接費)
 高速増殖炉の開発全体では1兆524億円の事業費を要し、さらにプルトニウム燃料の開発を含めると1兆5959億円という巨額の税金が投入された。
 (そしてそれで得た発電の収入などは、わずか6億円に過ぎなかった。)
 しかも事故発生後は、配管に流れているナトリウムを固まらせないよう保温を続けなければらず、1ワットも電気を生み出さない原子炉でありながら、その維持管理に99年までの4年間で600億円の浪費、高速増殖炉の関係予算合計では1200億円を食いつぶしてきた。(以上、増殖炉に直接関わる出費)

 動燃(98年10月1日に改組された現在の「核燃料サイクル開発機構」)は、科学技術庁の年間予算およそ5000億円のうち、組織を維持するだけで毎年1500億円前後を使っている。この国民出費は、「もんじゅ」火災を起こした95年前後に欠損が1291億円に達し、67年に動燃が設立されてから28年間の累積欠損は、1兆4441億円にもなっていた。

 今後、万一「もんじゅ」が運転されるようなことがあっても、採算がとれないことは明白であるが、それを知りながらいまだに莫大な予算が組まれている。核燃機構(旧動燃)は科学技術長傘下の特殊法人であり、増殖炉開発に使われている予算は、全て国民の税金である。

ちなみに1兆2500億円が投資されたフランスの高速増殖炉(実証炉)「スーパーフェニックス」も、1兆3000億円が投資されたドイツの増殖炉・再処理路線も、現在は断念され撤退している。


20 プルトウム増殖の理論は事実上破綻した

 「核分裂しないウランを利用してプルトニウムを増殖する」というもくろみそのものが、実際の増殖炉リサイクルのなかで効率的に起こらないことが判明した。最近の知見によれば、高速増殖炉が無事故で運転されても、プルトニウムが100倍になるのではなく、90年後にプルトニウムがようやく2倍になる可能性があるに過ぎないという。

その理由は1)実物の原子炉では、今まで語られてきたような高い増殖率でプルトニウムがうまれない。

2)増殖炉運転のためには、燃料のプルトニウムを再処理によってリサイクルし続けなければならないが、その処理の間に膨大なプルトニウムのロスが生じること。

3)リサイクルを順調に進めるためには、完璧な増殖炉を大量に必要とすること。

さらに大きな問題として、「増殖炉から発生する使用済み核燃料」を再処理する技術が日本にはない、ということがあげられる。この化学処理に成功しなければ増殖炉リサイクルのシナリオ自体が成り立たない。

 「増殖炉から発生する使用済み核燃料」は「軽水炉から発生する使用済み核燃料」に比べ、燃料1トンあたりの放射能が4倍以上、発熱量も2倍以上あるため、溶解プラントの金属材料が耐えられず、全く手がつけられない。

 高速増殖炉から出た使用済み核燃料の再処理は、商業技術的に100%不可能である。


21 1995年の「もんじゅ」ナトリウム火災事故の本質
<<略>>


22 プルサーマル計画とは

 「もんじゅ」の事故ほぼ1年後の97年1月から、「プルサーマル計画」なるものが、いきなり表舞台に登場してきた。「プルサーマル」とは、ウラン燃料のかなりの部分を最初から「プルトニウム混合燃料」に置き換え、従来の軽水炉を運転しようとするものであり、これに使われるプルトニウム混合燃料は「MOX燃料」と呼ばれている。

 現在、この計画は、関西電力用プルトニウム燃料を製造していたイギリスの核燃料公社BNFLによる検査データ捏造・悪質な製造実態の暴露によって、続いて東京電力用プルトニウム燃料を製造していたベルギーの工場における検査データの不備が明らかになったことによって、事実上延期を表明せざるを得ない状況に追い込まれている。

 この検査データは、プルトニウム燃料が炉心融解という最悪の事故を発生させるかどうかの鍵を握る、最も重要な判定資料であるが、通産省はこの捏造データの実態を早くから知りながら、国民に隠していたことが明らかとなっているし、福島県や新潟県の住民がこの(捏造前の)オリジナル・データの公開を求めても、東京電力は公開していない。


23 プルサーマル計画の危険性

1)核暴走しやすいプルトニウムが大事故を早める
 プルトニウム燃焼における最大の問題は、燃料棒内部のプルトニウム周辺で核分裂が加速される点にある。従来のウラン燃料でも、核分裂しないウラン238がプルトニウム239に変化して核分裂するが、軽水炉ではプルトニウムの核分裂が全ての燃料棒でほぼ均一に起こっていたのに対して、プルサーマルでは不均一にMOX燃料を配置し、軽水炉の数倍から10倍の高濃度のプルトニウム量であるため、暴走の危険性が著しく高まる。

2)事故発生時に制御棒の能力が低くなる。
 地震の際には、沸騰水型の原子炉内の沸騰水の気泡と中性子の関係が大きく変化し、核暴走の可能性があることが明らかになっている。そうした事故の際は制御棒が挿入されることによって危険を回避するが、プルトニウムが大量に使用される場合には、プルトニウムが中性子を大量に吸収し、その周囲の中性子が減っているため、緊急時に中性子を吸収して核分裂を停止させる制御棒を挿入しても、機能停止は遅れる。

3)燃料棒の破損が炉心融解事故を起こしやすい。
 加圧水型を主流とするフランスの体験では、長期間にわたってプルトニウム燃料を核分裂させると、燃料棒の内部でガス発生が顕著になり、燃料棒を破裂させる危険性が高いことが94年に明らかにされた。燃料棒の破裂は、そのまま炉心融解という末期的事故につながるもっとも危険な現象である。

4)日本には危険性を評価する実証データがほとんどない
 加圧水型では88~91年に美浜1号で4体のプルトニウム燃料、沸騰水型では86~90年に敦賀1号で2体のプルトニウム燃料集合体をテストしただけであり、ごくわずかな量を短期間使用した小実験である。それを基にコンピューター解析しただけで「安全」と断定した通産省と原子力委員会らの判断は、未知の出来事を憶測した結果に過ぎない。

 とりわけ高浜原発で計画されてきたプルトニウム使用量は、高速増殖炉「もんじゅ」級の1トン以上であり、世界で未経験の危険な運転である。福島原発と同じ沸騰水型原子炉の場合、全世界でプルサーマルの実績があるといわれてきたが、82年までに各国が撤退し、最近ではほとんど実例がない。唯一、大出力でプルサーマルを実施したドイツの原発も、「プルトニウム利用の完全放棄」へと道をとり、全世界からプルサーマルからの撤退を決定したため、日本の模範となる実績データがない状態にある。

5)放射性廃棄物の危険性が高まる
 プルサーマル運転によって、原子炉の中では、放射性ヨウ素とトリチウムの発生量がこれまでより増大する。また、放射能の寿命が長く、毒性の高いネプツニウム237、プルトニウム240、プルトニウム242、アメリシウム241などが増加し、これまでの原子炉以上に危険性が高まる。


24 プルトニウムを利用した場合の核拡散の危険性
 
 プルトニウムは数キログラムというごくわずかな量があれば、容易に核兵器に転用できる。

 プルトニウム量は、膨大なものに達している。日本がフランスとイギリスに再処理を委託したため、98年末時点で、核分裂性プルトニウムが海外で27トン、国内の東海再処理工場で6.4トン回収され、うち8.9トンが「常陽」「ふげん」「もんじゅ」の燃料などに使われたが、在庫量として残り24.5トンが蓄積されいる。これは長崎原爆に換算して3000発以上の材料である。


25 プルトニウムはリサイクルする?
 
 電力会社は、プルトニウムを貴重なエネルギー資源であると説明し、ウラン資源の節約論を言い始めた。プルサーマル運転によって、ウラン資源の1/4(25%)も節約できるという「うまい話」である。しかし、

1)電力会社の「ウラン25%節約」という数字は、実際には8%程度でしかない。

2)そもそも前述のように、プルサーマル運転によって出てくる危険な使用済み核燃料からウランやプルトニウムを回収するための再処理技術は日本にはない。よって、ウラン25%節約のシナリオは空論に過ぎない。

3)運転後は、使用済み核燃料のなかに、新たにプルトニウムが発生してしまうので、全体的なプルトニウムの量は減ることがない。

 フランス・イギリスから返還されるプルトニウムを一度プルサーマル運転にかけるだけで、以後は再処理をしなければ資源はリサイクルせず、プルトニウムは「減少」しているかのように見える。ようするに、プルトニウムという放射性廃棄物を処理するために、致し方なく危険なプルサーマル運転を強行する、というのが正しいシナリオである。フランス・イギリスで取り出してしまったプルトニウムを日本は消化しなければ「核兵器原料を保有しない国際公約」を守れず、電力会社が原発の運転を続行できなくなるからである。

 もしプルサーマル運転に技術的な危険性がなければこのシナリオは成り立つかもしれないが、前述のような理由でそれは不可能である。


26 プルサーマルの経済性

 プルサーマルによって浪費されるエネルギーは、再処理工場の建設、ウランとプルトニウムの回収、膨大な量の高レベル放射性廃棄物の発生、プルトニウム燃料の製造と輸送、原子炉の燃料配置の設計変更、無数の危険性対策などを合計すると、「数%のウラン節約」では到底引き合わない。


27 できてしまったプルトニウムをどうするか

 Q:すでにイギリス・フランスで取り出してしまったプルトニウムをどのように管理するか?

 A:イギリス・フランスから返還される純粋なプルトニウムに、日本へ輸送する前に不純物を大量に混合して焼結し、再処理前の「高レベル放射性廃棄物」に戻してやる。これによって、「核兵器問題」と「プルサーマル運転の危険性」と「再処理工場の危険性」という問題を3つ解決できる。(残る、高レベル廃棄物の管理に関しては後述。)


28 プルトニウム利用による電力価格は

 プルトニウム燃料の製造工場は日本にはなく、海外に製造を依頼しているが、それによって燃料コストはさらに高くなった。その契約金額が秘密にされているため価格は不明だが、イギリスの核専門家の解析では、プルトニウム燃料は2000年時点における国際的ウラン価格の4倍になると報道されている。
 また、再処理をするには、再処理工場を建設するだけで2兆円を要する。そこから抽出されるプルトニウムの用途は、増殖炉の将来を失った現在、全てプルサーマル用のものだけである。したがって2兆円はプルサーマル・コストであるから、電気料金を1割~2割以上押し上げる要因となる。

 先進国が原子力発電をスタートした本来の目標地点は、プルトニウムの有効利用にあった。ところが危険性と経済性の両面で、いずれもプルトニウムから撤退せざるを得なくなった。こうしてプルトニウムの有効利用は不可能であることが産業的に実証された以上、日本でも当然、原子力時代の終え方を議論しなければならない時期にある。

 過去の日本のエネルギー行政は、国民のために安全にかつ安価にエネルギーを供給するというもっとも単純な最大の目的を見失い、論理性を欠いている。それは、エネルギーの全体像をとらえる専門家が行政に不在のまま、原子力畑の人材が中心になって(独占支配的に)行政を進めてきたため、必然的にまねいた過ちである。この人事メカニズムが解決されない限り、いつまでも時代遅れの誤った政策を国民に強要し、税金の浪費が続くことになる。

(つづく)

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