米国弁護士が明らかにする「配慮する」の意味 沖縄ジュゴン訴訟

24wacky

2008年04月28日 12:25

JanJanへ投稿後1週間近く放置され結局ボツになった原稿。
とっくに23日が過ぎ、ニュースバリューが低くなってしまったが。
その後「配慮」のずさんさを桜井先生が指摘している。
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沖縄タイムス4月26日付
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1月に判決が出た、普天間飛行場から名護市辺野古への新基地建設をめぐり日米の環境保護団体らが米国国防総省を相手に起こしたジュゴン裁判では、ジュゴンへの影響を評価するための追加情報の提出を90日以内に命じた。
米国でのジュゴン裁判、保護団体勝訴・問われる日本のアセスメント

この期限が今月23日に迫っている。那覇市の八汐荘で20日(日)、「沖縄ジュゴン 『自然の権利』シンポジウム」が開催された。この中で来沖した米国のサラ・バート弁護士は、画期的な判決において判事が下した命令の詳細を解説し、原告側として今後の方向性を予測した。サラ・バートさんは環境訴訟を手掛ける法律事務所アース・ジャスティスの弁護士である。以下にその報告を記す(サラ弁護士主体の文体であるが、文責は記者にある)。

判事が国防総省に求めたもの
判事が被告の国防総省に求めたものは4つあった。1つ目は、特にジュゴンに関して環境の評価を行うのに必要な情報。2つ目が、1つ目の情報がどの専門家、省庁などから出たものか出所を示せということ。3つ目が、日本の環境影響評価法がどのようなものであり、「配慮する」という部分を満たしているかということ。4つ目が、これらの集めた情報に基づきジュゴンへの影響は避けられると決定したのは誰か特定せよということ。

このことは同時に、国防総省が国家歴史保存法(NHPA)を満たすためには何をすべきであるかを私たち原告の側から示すチャンスを与えられたともいえる。それは同時に日本の環境影響評価法の不備を指摘できるチャンスでもある。

国防総省がこれら4つの情報を提出する期限が4月23日。それから45日間が原告側が対応するために与えられる期間だ。原告側がその期間でまとめた情報と被告側が提出した情報を元に、判事は国防総省に対して次のorder を求めてくるだろう。

「配慮する」( take into account )の意味
国防総省は辺野古の基地建設がジュゴンに与える影響に「配慮する」と共に、それを回避、緩和するためにどのような手法があるのかを示さなければならない。そこで 「配慮する」( take into account )の意味が問題になってくる。判事は「配慮する」プロセスにおいて次の4つを含む必要があることを告げた。

(1)保護された遺産の特定、(2)いかに当該行為が当該歴史的遺産に影響を及ぼすかに関する情報の作出、収集、考慮及び衡量、(3)悪影響の有無に関する決定、及び(4)必要であれば、当該悪影響を回避または緩和しうる当該行為の代替案又は修正案の策定と評価。

国防総省と地元沖縄のコミュニケーション
さらに判事は、「国防総省は、部外者を交えない自分たちだけの手続きで、当該配慮するというプロセスを完結させるのではなく、日本政府その他適当な民間団体及び個人との協働関係の下において、履践しなければならない」と認定した。

これは沖縄側が使える法律がここにあるということを意味し、とても重要なポイントだ。そしてこの協働は双方向でなければならない。国防総省が集めた情報を地元沖縄側にも伝えなければならない。これが重要なのは、日本の環境影響評価法の手続きの詳細が明らかにされることだ。さらにこの情報提供は環境影響評価の過程でなされなければならない。

そして国防総省は自分たちの側の科学者の意見だけでなく、沖縄側の専門家、地元の意見をも情報として集めなければならない。そこでジュゴンが文化財保護の立場からいかに重要であるかを沖縄側から訴える機会となる。このように国防総省と地元沖縄のコミュニケーションが義務化されている点が、NHPAの持っている強みだ。

しかしながらNHPAには弱点もある。国防総省側が地元から集めた意見等を今後の計画や行動に組み入れていかなければならないという文言はないということ。よってNHPA単独で基地建設を止めることは難しいということも現実的に視野に入れなければならない。NHPAはあくまで新基地建設を止めるための一つのツールである。

NHPAと日本の環境影響評価法の関係
NHPAは非常に強力な法律だが、残念ながら米国外の米軍基地には適用されない。国防総省がNHPAの責務を果たすに際し、日本の環境影響評価法と合体させた形をとるのかどうかを判断することにおいて注意しなければならないことは、NHPAをそのまま適用させるわけではないということだ。国防総省が日本の環境影響評価を担保に責務を果たすことは出来ないわけであるが、諸々の情報を作出する中で日本の環境影響評価からの情報を使用できる。→注

→注
訴訟の過程で国防総省は、そもそも米軍普天間飛行場代替施設建設事業(辺野古への新基地建設)は日本政府がやっていることで自分たちの関知しないことであると却下申立てをした(がこれは却下された)。判決においても「配慮する」義務は国防総省に課せられるものであり、日本が日本の法に従い環境影響評価を行うからといって、米国にその義務がなくなるわけではないとしている。
ここでサラ弁護士が述べているのは、国防総省はNHPAに則り「配慮」をしなければならない。それは日本の環境影響評価の実施とは別に行われるべきである。しかしその「配慮」の中で日本の環境影響評価の情報がいい意味でも悪い意味でも使われる可能性がある、ということか。


今後の対策
恐らく8月か9月あたりに地元との対話をする国防総省の担当者が決まるだろう。その時原告側はその担当者に対して、手紙や文書などで、地元にとってジュゴンがいかに重要なのか、なぜ新基地建設がジュゴンに悪影響を与えるのか、そしてそれを回避するために何をすれば良いのかという見解を示すことができる。さらに国防総省は地元に対して公聴会を開くことが想定される。実際米国内で起こっているNHPAと同等の形で適用されるのではないか。その詳細は今後明らかになるだろう。

サラ・バート弁護士の報告はここまで

辺野古「アセス」の矛盾
この後沖縄大学学長の桜井国俊さんが辺野古「アセス」の矛盾を指摘する報告をした。桜井さんはこれまでのジュゴンに関する調査及び予測の方法書の手法を時系列で辿りながら、「定量的」と「定性的」という言葉に注意を呼びかけた。

2004年の沖合案方法書では、「影響を定性的に予測」と記された。2006年3月30日環境省は「基本的事項」を改正し「定量的に把握することを基本」とした。2007年8月の沿岸案方法書ではこの改正に配慮せず、2004年の方法書をコピーして「定性的に予測」とした。しかしこのまるごとコピーをよく見ると、環境現況調査として先行させた部分は方法書から外してあることが分かる。

今年3月の沿岸案方法書修正版では、「影響を定性的に予測」という部分はそのまま。にもかかわらず同時に1月18日の沖縄県環境影響評価審査会の答申、「個体群の維持への影響の予測」を行うという内容を丸呑みしている。このような矛盾を抱えながら、「果たして丸呑みが出来るのだろうか?」と桜井さんは疑問を呈した。

最後のパネルディスカッションでは参加者との質疑応答が交わされた。「この画期的な判決が全国レベルではそれほど報道されていない。県内では伝えられているが、判決が県内に与えた影響は?」との問題提起に対して、弁護団長の新垣勉弁護士は「マスコミは判決の意味を正確には伝えていない。ジュゴン訴訟を通じて新しい情報が開示されたことと、判決後3月に膨大な追加・修正資料が出されたが、判決によって防衛庁がより慎重になった、プレッシャーを与えることができたことの2点に意義がある」と述べた。

サラ弁護士は「米国へのプレッシャーは日本政府へのプレッシャーにもなるはず。日本政府が運動側からのプレッシャーに敏感でなかったとしても、米国の判決には敏感になるのでは。米国政府が日本の環境影響評価法をNHPAの責務を満たすために使いたいというのであれば、逆に日本政府が環境影響評価法をきちんと履行し、質を高める努力をしなければならなくなる」と締め括った。


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