2018年01月01日
『証人のいない光景』李恢成
金文浩の元に樺太国民学校時代の戦時のある光景を覚えているかと、かつての学友矢田から手紙が届く。それは勤労奉仕でカボチャ畠に収穫に行った際に出くわした日本兵の腐敗した死体についての衝撃であった。矢田はそれを目撃したことがその後の人生に暗い影を落とし、その光景に憑かれている。その意味を金に求めるが、金はそれをまったく覚えていない。
若き柄谷行人は金の「記憶喪失」について、《それは心理的劣位に立つ者が抱く過度の自己意識(したがって記憶過多)は、ある優位に立ったときには消滅してしまうということである》(『柄谷行人書評集』)と述べる。ここで「ある優位」とは、金が差別という負の過去から家庭を持ち安定した生活を手に入れた在日二世としての現在をさす。「告発」でも「告白」でもない非対称性というリアルがそこにある。《「証人のいない光景」はいたるところにある。それは、ある関係に立つ者同士は、同じ事実を、けっして同じようには経験しえないからだ》。そこでは「証人」というニュートラルなポジションに立つことはありえないということだ。
『現代の文学36 古井由吉/李恢成/丸山健二/高井有一』より『証人のいない光景』
著者:李恢成
発行所:講談社
発行年月:1972年11月16日
2017/12/17
著者の散在したこれまでの書評を集めた本書は三部構成になっている。さしずめ晩期・早期・中期という区分をさせてもらうが、時系列が攪拌されている。そこがニクい。私はⅡ部に不意打ちを食らった。若き文学批評の言葉、レトリックの切れ味の鋭さに。あとがきにはこう書かれている。それら(ブログ主注・Ⅱ部・Ⅲ部…
Posted by 24wacky at 11:58│Comments(0)
│今日は一日本を読んで暮らした