2010年02月25日

『沖縄論』

本書と昨年発行された『沖縄「自立」への道を求めて』の副題と帯の文句を比べてみる。

『沖縄論』
副題:
平和・環境・自治の島へ
帯:
広大な米軍基地の存在と
沖縄振興開発政策は
沖縄に何をもたらしてきたか。
未来に向けて
沖縄はどう変わるべきか。

『沖縄「自立」への道を求めて』
副題:
基地・経済・自治の視点から
帯:
基地に依存しなければ、
沖縄の経済は本当に成り立たないのか?



これだけ比べるだけでも、内容・発行の趣旨が似ていることが分かる。さらに、両者とも共著書であり、しかもその著者の何名かは重なっている。分かり易い違いを指摘すれば、『沖縄論」はガチガチの論文調で書かれているため読み手を選ぶのに対し、『沖縄「自立」への道を求めて』は元々はシンポジウムの発言内容なので、内容の割りに文体が読み易い。前者は3900円+税、後者は1700円+税。

両者に共通する「趣旨」というのを私なりに勝手に解釈すれば、この沖縄をめぐる危機的状況に対する、極めてアクチュアルな言説のポリティクスとして闘争を挑んだということではないか。闘争というとき、出版するという営為において、流通の場の重要性をみることはいうまでもないはず。二番煎じと受け取られかねないその内容、高額な値段。岩波書店よ驕るなかれ。本書に対する第一印象である。

といって、それぞれの論文にケチをつける気はさらさらない。特に、佐藤学、川瀬光義、砂川かおり論文は新鮮な切れ味がある。むろん、桜井国俊、島袋純も必読だが、それほど新しいことは書いていない。

危ぶまれるのは、最初に注文をつけたように、この本があまり多くの人の購買意欲を掻き立てないということになったときに(しかし先週末のジュンク堂沖縄本ランキングでは第3位!)、最重要な佐藤学の論文が読まれないことだ。これは避けられなねばならない。なぜというに、同論文は「今、ここで」こそ読まれねばならないし、「今、ここで」読まれるために書くのだという、その重力がやたらと強い文章だから。

佐藤の同論文と屋良朝博『砂上の同盟』の2冊があれば、メジャーメディアがなにを空疎に叫ぼうと、官僚支配の政権が亡霊のごとくアクトしようと、梶井の「檸檬」よろしく、一瞬にしてそのねじれた秩序を、冴えない色彩を更新することができるだろう。

と書いてはみたものの、正直な話、4000円も出して絶対読めともいい難い。「沖縄のこころ」より4000円の方が惜しいですよ、宮本先生。

ということで、これだけは紹介したい佐藤学論文の概略を記すことにした。もちろん文責は24wackyにある。これを読んで理解できなければ、それは24wackyのざっくりとしたまとめ方に責があるだろうから、その際は原文をぜひ読んでみてほしい(もちろんそうでなくても読んでほしい)。


「米軍再編と沖縄」 

米軍再編
米軍再編を考える時、以下の視点からみることが重要である。軍隊というのは硬直性が高く、現状維持志向が強い。軍事そのものが利益団体として既得権を守る強い意思があるため、政府の思惑から必要にかられて軍事的に再編成しようとしても、それが必ずしも実行されるとは限らない。あるいは逆に、軍事的には必要性の低い再編成が、政治的な理由で実行される場合もある。

米軍の再編成を第二次世界大戦から現在までみていくと、米国内の政治状況、および、対外的経済力と政府財政の状況が、並行して大きな影響を与えてきた。つまり、それらによって大きく左右されるということ。例えば、クリントン政権では、80年代のレーガン政権のせいで膨れ上がった財政赤字を削減することが急務となったため、軍事予算も削減された。

つまり何がいいたいかというと、「地政学的重要性」(軍事的理由)からなくてはならないというのが、沖縄に米軍基地がある理由としてこれまで常に語られてきたわけだけれど、それよりも他の理由で、例えばたんに金がないからという理由で、そんな話は一気にパーになる、事実これまでそうなってきたわけだし、と、そういうふうに24wackyは解釈した。これが一点。

それはそうと一応「軍事的理由」の話もしておくと、QDRっていう制度がある。これは米国攻防総省が4年ごとに軍の体制を見直す制度で、最近の報道で2010年のQDRについて伝えられているから聞いたことがある人もいるはず。その前はというと2006年。この2006年のQDRがどういう内容かというと、海外にはできるだけ常駐させないで、米本土からの即応体制で対応しようというのがその内容。これは技術革新によって可能となるもので、予算削減にもなる。いわゆる「米軍再編」のコンセプトもこれと同じ。

辺野古の新基地建設というのは、大規模な飛行場プラス軍港という恒常的なものだ。これは米軍の軍事的理由と、大枠で矛盾しているでしょ。つまり、これこそ「軍事的には必要性の低い再編成が、政治的な理由で実行される場合」ではないか。

オバマ政権
それではオバマ政権にとって米軍再編はどんな意味をもつのか。そもそもオバマ政権は、ブッシュの残した財政悪化、経済の冷え込みを清算することを命題としている。外交面においても、ブッシュの一国主義好戦路線から劇的に離脱している(ただし、アフガン増派にもあるように、これは平和主義というより徹底したリアリズムによるものだとみたほうがよい)。例えば、F22ステルス戦闘機の生産継続に予算がつかなかったことが顕著に示しているように、リアリスティックに軍事予算も削られていく。

一方で、中国とは完全に経済的依存関係にある。軍事よりも経済を優先するため、両国が軍事的に緊張するということは、当面ありえない。

この点からいっても、中国脅威論→沖縄の地政学的重要性→沖縄への米軍基地押し付けという論理はまったく説得力がないではないかと24wackyなら思うが。

「グアム移転協定は強力な拘束力を持つ」はウソ
アメリカと日本では議会のありかたが大きく異なる。米国連邦議会は、上院と下院が法案をそれぞれ審議、修正、可決する。次にその二つの法案を摺り合わせ、統一した法案にまとめ、両院が再議。それが再可決した後、大統領が署名して、ここではじめて成立するという仕組みになっている。

グアム移転協定には主語が「アメリカ合衆国政府は・・・」と書かれているが、連邦政府の議決を経ない限り、予算は降りない。たとえ大統領や国務長官が何を約束しようと、議会がそれに従わねばならぬ義務はない。国会の決議で批准する日本のやり方とは違うのだ。ましてやアフガンへの軍事費が増加する中で、重要度の低い支出を連邦議会が予算化するろうか?

そのオバマ政権が重視しているのが環境と人権。希少生物の生息地を潰す辺野古と高江の基地建設を、米政権上層部に届ければ大きな波紋となる。だからオバマ政権に対しては、辺野古基地建設を断念すること、グアム移転費用に予算を出さないことが得策であること、それが米国にとって国益であることを知らせるべき。

グアム移転協定が強力な拘束力を持つという考えについては、沖縄メディア自体が報道してきたことで、多くの運動サイドも私自身もそう捉えてきたが、アメリカ国内からみれば、そうではないんだ、そんなことで怯む必要はないのだ。いや、むしろその政治制度を利用して、環境と人権をセールスポイントにしているオバマ政権にピンポイントで切り込むことが運動として有効であると佐藤は鼓舞している。その好例としてジュゴン訴訟を挙げながら。

鳩山政権
鳩山政権は「普天間飛行場県外・国外移転」をマニフェストから外し、岡田外相、北沢防衛相らもそれを不可能視する発言を繰り返している。どうして「緊密で対等な日米関係を築く」とマニフェストで謳った通りにできないのか?その理由として次の6点を挙げる。

①戦後の日米関係の過程で「とにかくアメリカを怒らせると恐い!」という非合理的な恐怖が植えつけられた
②日米両国で「ずっと今のままがいい!」という人たちが仕切っている
③日本には、野党側が代替的政策を準備するための組織的支援体制がない
④日本は米国政治を外側からしか見られない
⑤日本の指導者に、米国長期留学、就労者が少ない
⑥矛盾と不満を沖縄に集中させることで、全国争点化させない構造になっている

論文を締め括る以下の言葉は、これらをひっくるめつつ、強烈なメディア批判となっている。

 全国紙、TVニュースの取材ソースは、「知日派」(24wacky注…もともとSACOや辺野古に関わり続けてきた当事者たち)に限られており、彼等のみから取材した報道は、当事者の一方的宣伝を流している。それは、本来、取材・報道と呼ぶに値しない。言語能力を含めた取材能力の欠如と、米政府内でこの問題の重要性が低いために、他には取材できるだけの知識を持つ対象が見付からないということが実情であろうが、報道機関の米国追従の度合いが明らかになった意味は大きい。


以上、佐藤論文をざっくり紹介させてもらった。

なお、『沖縄論』についてもっとまともな書評が読みたい方は、宮城康博さんの沖縄タイムス書評(2月20日付)、そしてその字数制限から書ききれなかったことを述べたブログ記事があるので(どうみてもこちらのほうが書きたかったことだと思えるが)、併せて読んでいただきたい。
「沖縄のこころ」―民衆の社会的連帯の再生



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この記事へのコメント
出遅れてしまいました。ごめんなさい。丁寧な紹介をして頂き、心からお礼申し上げます。

『沖縄論』の値段の高さは、これ、岩波書店への持込企画で、売れ行きに懸念があるのでしょうがなかったようです。
高いよね、本当に。康博さんは、バラして抜き刷りにして、必要なところだけ買えるようにしろって言ってたけど、そうしたら地下出版みたいです。

3月27日のシンポジウムは、なあなあにするつもりは無いので、ご期待下さい。
Posted by まなぶた at 2010年03月02日 17:51
>まなぶたさん

>バラして抜き刷りにして、必要なところだけ買えるようにしろって言ってたけど

まったく同感であり、この記事も同じような動機付けから書きました。

ただ、そういうのも電子出版になったら可能なのかもしれませんね。利益の分配をどうするかとか課題はあるでしょうが。

27日のシンポ、あるいは9日ワシントンでのシンポなど、詳細が分かれば告知したいのですが・・・
Posted by 24wacky at 2010年03月02日 18:15
 
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