2017年01月20日
完訳 ペロー童話集

英文科の大学生だった頃の思い出。3年になるといよいよ本格的に専門科目を学ぶようになり、同時に、同じ文学部内で他の学科の単位も限定的に履修できるというシステムがあった。それを利用して履修した仏文科の「フランス文化」という単位は、シュールレアリズムの専門家であり、あのブルトンの『ナジャ』などの翻訳家としも知られる巖谷國士の講義であった。これが『列車の到着』から始まるサイレント時代の映画をひたすら観まくるという素晴らしすぎる内容。毎週が楽しみでしかたなかった。
で、あるとき、その講義室で、仏文科と思われる一人の女子に吸い込まれるように見入ってしまった。同じ「かわいい」でも英文科の女子とは明らかにタイプが異なる。「知性を身につけていることが美である」というプライドを秘めた、とでもいうべき圧倒的な魅力を発散させていた。彼女の座る講義机の上の一冊の文庫本が目に入った。思わず盗み見てしまった。それが、この岩波文庫の『完訳 ペロー童話集』だった。巖谷國士のゼミ生かなにかだったのかもしれない。
それ以来、初めて読む機会を得たのは、というより、そのことだけを思い出させられたこと(覚えていること)には妙な感慨を持つ。
安吾が「文学のふるさと」の例にあげる「赤ずきんちゃん」の本文は、岩波文庫でたった4ページ。その「突き放す」感覚を読者に与えるラストはこうだ。
「おばあちゃん、なんて大きな歯をしているの?」
「お前を食べるためさ」
そして、こういいながら、この悪い狼は赤ずきんちゃんにとびかかって、食べてしまいました。
(179ページ)
この「プツンとちょん切られた空しい余白」(坂口安吾)をして、30年前の仏文科のファムファタールから突き放される快感を味わっている。
『完訳 ペロー童話集』
訳者:新倉朗子
発行:岩波書店
発行年月:1982年7月16日
Posted by 24wacky at 10:32│Comments(0)
│今日は一日本を読んで暮らした