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2018年06月30日

『灯台へ』ヴァージニア・ウルフ

『灯台へ』ヴァージニア・ウルフ

 明日灯台に行くことを心待ちにする幼い息子と息子を愛おしむ美しい母親、他愛ないそのやり取りに横やりを入れる不機嫌な哲学者=父親。イギリス人家庭を題材にした小説はそのような情景から始まる。場所はスコットランド孤島の別荘。時代は第一次大戦の頃。母親ラムジー夫人を中心に、別荘に集まる数人の関係を素描しながら、それらの意識の移ろいが読み手の快楽を徐々に高めて行く。第一部「窓」はこの一夜のみが書かれ、終える。

 第二部「時はゆく」の始まりで、ラムジー夫人のあまりにも唐突な死が伝えられる。その後、時が経ち、空っぽの別荘についての非人称による「描写」が淡々と書かれる。管理を任されたマクナブ婆さんの疲れた足取りだけがかろうじての生命感を現す。

 第三部「灯台」は、時を経て別荘に戻ってきたリリー・ブリスコウの視点を中心に、ラムジー氏や成長した息子ジェイムズらの「その後」が書かれる。しかし、彼ら彼女らがなぜ遠路はるばる別荘に戻ってきたかは判然としない。そのようにして不在のラムジー夫人が想像的に召還されるといってもいい。親子で小船に乗り灯台へ向かう。絵を描きながらその風景を視るリリー。

 時制を変えて実現される灯台への移動は「逃走」ではない。ではなにか?とりあえず、ここでも第1作『船出』を反復するように「行って戻ってくる」物語構造がある、とだけいっておく。

 ウルフの小説では、登場人物のいずれにも「感情移入」できない。これらの意識は内省ではないのだから。
 

『灯台へ』
著者:ヴァージニア・ウルフ
発行:岩波文庫
発行年月:2004年12月16日


2018/06/13
『船出(上)(下)』ヴァージニア・ウルフ
 モダニズム作家ウルフのデビュー作本邦初訳。ロンドン生まれで世間知らずの若い娘レイチェルを主人公としたビルドゥングスロマン。南米に向けた船上での人々との出会い。到着後のホテルとヴィラ二カ所を拠点に、原住民の棲む奥地へと進む船の小旅行。アメリカへと覇権が移ろうとする大英帝国没落の予兆とオリエンタ…




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