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2009年09月21日

交換様式から見た呪術

「『世界共和国へ』に関するノート」のためのメモ その30

柄谷行人著『クォータリーat』連載「『世界共和国へ』に関するノート」のためのメモを最後にとったのは2月のことだからずいぶんとたつ。無論その後も柄谷の連載は続いているのだが、生来の怠け癖から無精してしまった。およそ読む者のことを考慮しないゴチゴチの「メモ」ゆえ、続きを期待するような奇特な人もいないだろうから、その分気は楽なのだが。

実は無精してしまったのは怠け癖からのみともいえない。ここにきて連載のツボともいうべき交換様式D、最も期待していた核心部分がまさに述べられようとしているのだが、それに対して怖気を震ってしまったといえばよいか、暗闇での跳躍ままならず、すっかり自閉してしまったのだ。


前回の交換様式D 抑圧されたものの回帰では、交換様式Dとは、普遍宗教が交換様式BとCが支配的である世界帝国の下で、それによって抑圧された交換様式Aが高次の次元で回帰したもののことであると論じられた。それは現実には存在しないが、人を強いる「力」、倫理的な至上命令として出てくるものである。

これが資本と国家の揚棄のために目指すべきアソシエーションとどう関わってくるのか?アソシエーションとは宗教的なものだというのか?これには意表を衝かれた。というか底なし沼に捕まって、しかしいつまでたっても完全に沈みきらずもがき喘いでいる。そんな状態に陥ることをこれまで余儀なくされてきた。

もがくこともやめられない。無抵抗・無重力になるなどという高等技術も持ち合わせていない。それがこの半年あまりの自分だ。しかし、とにかく書くことから再開してみる・・・

『クォータリーat15号』「『世界共和国へ』に関するノート(11) 普遍宗教は交換様式Dとしてのみ出現した」は、まず交換様式から見た呪術の解説から始まる。一般的に宗教というのは観念的なものとされ、その歴史は経済・社会史から説明される。例えば、ウェーバーは呪術から宗教へ発展した、あるいは呪術師から祭祀階級へ変化したと段階的にとらえ、それを実現したのが近代資本主義と近代科学であるという。ウェーバーは同時に、宗教がいかに発展しても呪術を脱却することはむ難しいことをも指摘しているが。



柄谷は、このように宗教史を経済・社会史から説明するのではなく、交換様式という観点から見ようとする。それによれば、呪術とは、自然ないし人間を、贈与によって支配・操作することである。呪術の根底にはアニミズム(すべての対象を霊的であるとみなす)がある。

ここで参考になるのが、マルティン・ブーバーのいう、世界を「それ」(対象)としてではなく「汝」としてみる態度だ。自然であれ人間であれ、「汝」とみなせば、それはアニマ(霊的な存在)としてあらわれる。霊的な存在は恐ろしいのでどうにかしたい。そこで供犠(贈与)することによって、自然に負債を与え、アニマを封じる。つまり、呪術というと呪文やら儀式やらによって自然を操作する非合理的な行為に見られがちだが、逆に、脱霊化することによって自然を対象化するという「科学的」なことを行っているのだ。

ここで遊動的バンド社会と定住社会の違いが関わってくる。遊動的であるということは、死者が出ても埋葬してその地を去ればよいのだから、死者の霊を恐れる必要がない。いいかえれば、そこでは呪術(互酬原理)が働かない。それに対して、定住するということは、死者と共存しなければならないことを意味する。そこで死者のアニマを抑える、つまり「贈与」する、呪術する。それが葬礼であり、先祖信仰である。その結果、死者たちは先祖神となり、氏族社会をリニージによって統合するものとなる。

このように氏族社会は互酬交換によって形成された社会といえる。同時にそこでは呪術が発展し、祭司の地位も高まる。ここで注意したいことは、それには限界があるということ。互酬原理は超越的な地位を許さない。よって氏族社会において首長の地位がいかに強化されたとしても、それは王のように絶対的な権力を持つものにはならない。このことを忘れてならないのは、氏族社会以降、国家社会になると絶対的な権力がもたらされることになるからで、それは別の交換原理が働くためであり、だからこそ、それを許さない「力」がそもそもこの呪術(互酬原理)にはあるのだということをまずは押さえておくべきだ。





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