2009年03月13日

『チェンジリング』

シネマQで『チェンジリング』を観る。クリント・イーストウッド監督作ということで注目していたが、予告編を観たところ、彼の作品のいくつか(例えば『ミスティック・リバー』)についてまわる倒錯的なまでの暗さを感じ観るのに躊躇していたが、何人かの知人の評価を聞き、やはり観ることにした。そしてそれは正解だった。


この映画の良い点は、「幼少期のトラウマ原因的フラッシュバック・サイコスリラー」に安易に陥っていないところだ(記憶が定かでないが『ミスティック・リバー』はこの傾向の作品であったような)。サイトのプロダクションノートを読むと、映画化企画の元ネタとなる資料には、児童誘拐殺人鬼ゴードン・ノースコットは、「ウォルター・コリンズ殺害について何度も肯定と否定を繰り返した」とあり、その「邪悪な犯罪の詳細」が無視できないことが書かれている。これだけでも十分興味深い異常犯罪者のエピソードであるが、その「心理」をテーマに描きたくなる欲望は適度に抑えられている(劇中「肯定と否定の場面はあるのだが、その「心理」描写は斥けられている)。

にもかかわらずというべきかそうであるがゆえになのか、ゴードン・ノースコット役のジェイソン・バトラー・ハーナーの演技は秀逸である。それは『ダーティー・ハリー』の殺人鬼スコルピオ(アンディ・ロビンソン)のキャラクターに勝るとも劣らない。

一方我が子を誘拐された主人公クリスティン・コリンズは当初「息子が帰ってきてほしいだけ」とすがるのみだった。そして腐ったロス市警に対して「ともに闘おう」と声をかける牧師(ジョン・マルコビッチ)の申し出をもやんわりと断る。その彼女の変化が作劇上の「急転」(アリストテレス)であることは間違いない。どう変わったか?そこにはこの作家が性懲りも無くいい続けてきたシンプルなメッセージがある。ちなみに最初にその言葉を発するのは「夜の商売」で精神病院に送られた女だ。






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この記事へのコメント
「チェンジリング」楽しまれたようでよかったです。
「エグザイル」見ました。すばらしい映画で驚きました。一瞬も目がはなせない画面づくりでしたね。
Posted by 浜川 at 2009年03月14日 09:47
浜川さんに偶然お会いして話を聞いていなかったら『チェンジリング』を観ていなかったので感謝します。『エグザイル』への驚き、同感です。お互い良い交換ができましたね!
Posted by 24wacky at 2009年03月14日 09:57
そう書かれると観たくなってきました。
ジョン・マルコヴィッチは実は贔屓なのです。『マルコヴィッチの穴』を機会に名優などと持て囃されて以降、中途半端なファンの倒錯心理か、追いかけていないのですが(笑)。
Posted by 齊藤 at 2009年03月14日 19:20
イーストウッド作品をほとんど観ているような齊藤さんからしたらどう評価されるか分かりませんが、お薦めしておきます。
ジョン・マルコヴィッチはほとんど知らなかったのですが、あの途方にくれたオメメがいいですね。
Posted by 24wacky at 2009年03月14日 19:54
 
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