2009年04月13日

『この自由な世界で』

桜坂劇場へ『この自由な世界で』を観にいく。

『この自由な世界で』ケン・ローチの映画はいつも寒々としているが、そこに登場する人々は体温が感じられる「わたし」や「あなた」である。シングルマザーとして個人の自立を勝ち取るため起業したアンジーの職種が職業紹介所(人材派遣業)である、そこに主人公を設定したところが、映画の説話構造を特異にしている。

自宅の窓ガラスを破壊するブロックが投げ込まれ、そのブロックには「盗人」と貼り紙がされているというシーンが印象深い。裏切られた日雇い労働者であり移民であるところの彼らからのメッセージであるが、「盗んだ」アンジー自身もまた「盗まれて」いるのだ。

映画は、アンジーが脅されても恐い目にあっても懲りずに移民への違法な職業斡旋業を続けるシーンで終わる。資本と国家の紐帯を緩めることの困難さが、剥き出し状態で我々の前に差し出される。

仕事が無いという状態がどれほどシビアなものなのか、労働力商品とさせられることがどれほど絶望的なことなのか、知ったふりをしていた私はケン・ローチの肉感的な力で胸倉をつかまれた。帰路通り過ぎた新都心のハローワーク前は、職にあぶれた「私」や「あなた」の乗る車で相変わらず渋滞していた。






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