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2013年10月15日

沖縄の風 その4

東京は暑いとは聞いていたが実際暑かった。8月の終わりとはいえ、都会の蒸し暑い夏が滞っていた。兄の入院する大学病院へ通う商店街で、ローカル線を経由する懐かしいはずの駅のホームで、人々はうんざりしたようにこちらからあちらへ移動していた。「沖縄も暑いでしょ?」と言葉をかけられるとこう答えた。暑さの質が違う。東京の暑さは下から照り返す不快な暑さ。沖縄の暑さは太陽が確実に体力を奪う暑さ。でも沖縄の風が吹いている。


「沖縄の風が吹いている」。そのせりふを聞いたのは、11年前、急性くも膜下出血でKがこの世から去っていったときのことだった。葬儀を終え、KとパートナーのMが生活を共にしていた世田谷のアパートに寄った。何度となく訪れたその2DKの部屋には、Kのご両親をはじめ親族が集まり、疲れた心身をしばし休めていた。Kは宮古島出身だった。親族の多くは沖縄本島に移り住んでいたが、それぞれ突然の訃報を聞き、遠い南の島から駆けつけたのだ。

なんだか不思議な感じがした。東京の広くはないアパートに沖縄の親族が集まり、しかもその部屋の主が不在であるという光景は。

一人息子に先立たれたお父さんとお母さんの無念さと心労を気にかけながら、一同はやがて部屋を出た。二階から階段を降り、恐らく二度と訪れないであろうアパートを前にして、皆、なんとはなしに歩を止めたとき、Kの姉(長女)がつぶやいた。

「沖縄の風が吹いている」

誰も応じる言葉を発しなかったが、みなその言葉に納得している様子が伝わった。

息子を、弟を奪った得体の知れない東京という街に対する可能なかぎりの防御として、少なくとも自分たちが集まっているそのあいまには、異質な沖縄の風が吹いている、そしてそれが自分たちを守ってくれているのだと、お互いに言い聞かせることで慰撫しているように、彼らにとって異質なわたしには聞こえた。そういわれると、確かにそのように思えてならなかった。


母と妹と連れ立って兄を見舞うことを数日繰り返し、東京の不快な暑さにさらされながら、わたしは沖縄の風を想った。そして沖縄に戻ってからというもの、沖縄の風に敏感になりすぎている。恍惚として切ないほどに。

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Posted by 24wacky at 21:33│Comments(0)沖縄の風
 
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