2015年02月05日

『0.5ミリ』

『0.5ミリ』何度見逃したことか分からないくらいな待望の映画をやっと観ることができた。期待以上の、というか、「破綻した映画」を久々に観た。「怒涛の196分」の意味が分かった。

わけありオジサンに「おしかけヘルパー」山岸サワが強引に係わっていくというユニークな娯楽映画を、主演の安藤サクラが力いっぱいに演じきる。オジサンたちのどことなく哀愁を帯びた背中に、今にもよだれをたらしそうな笑みをもらず安藤サクラの下品と上品の境界線のような表情といったら・・・それだけで面白いに違いないのだが、映画は後半、その常道を逸らしていく。

破綻その1。元教師の義男先生(津川雅彦)が戦争体験を語る長尺1カット。義男先生の正面にセットされたカメラ。サワはインタビュワーとなり、質問の声のみがオフで聞こえる。つまり、戦争体験を記録するためにカメラをまわすという擬似設定である。津川のアップは、戦争はくだらないこと、亡くなった方は気の毒だということを繰り返す。

この異常なシーンの前振りとして、サワと義男先生の間で、軍隊式の敬礼の仕方で、「それは陸軍の敬礼。海軍はこうだ」というやりとりがある。この身振りが想起させるのは、小津のあの「反戦映画」だ。バーのカウンター越しに加藤大介が岸田今日子扮するママに「あれをかけてくれ」といってBGMが軍艦マーチに変わる。軍隊生活の話で盛り上がる加藤と笠智衆そして岸田今日子は音楽に合わせてリズムをとりながら手をかざし敬礼の身振りで供宴する。すなわち、ほのめかしとしての反戦映画へのオマージュ。

破綻その2。失語症のひきこもり少年マコトの変容劇。これはわけありオジサンとおしかけヘルパーという主題をほとんど壊してしまうのだが、それによってロードムービーを通じての青春物語としてのサワという主題がラストで露出する。

なんといっても、「家ナシ・金ナシ・仕事ナシ」のサワが次から次へとわけありオジサンたちを渡り歩くという設定は、現代のフーテンムービーを可能にした。フーテンの寅次郎の再来といってしまいたい。その舞台となるのが高知の秀逸なロケーションハンティングであることは新鮮な驚きである。

監督:安藤桃子
出演:安藤サクラ/柄本明/坂田利夫/草笛光子/津川雅彦/柄本明
劇場:ユーロスペース
2013年作品

関連サイト:
『0.5ミリ』


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