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2017年09月08日

〈自分の言葉をつかまえる〉とは? 山森裕毅『現代思想 八月号「コミュ障」の時代』より

『現代思想 八月号「コミュ障」の時代』

 対話を実践する試み「ミーティング文化」では、〈自分の言葉で語ること〉に価値が置かれる。

 ハンナ・アーレントは「言葉と行為によって私たちは自分自身を人間世界のなかに挿入する」といった(『人間の条件』)。アーレントが面白いのは、ひとが言葉によって自分を表すときに、自分がいったいどんな自分を明らかにしているのかを自分ではわからないといっていることである。人々が聴いてくれている状況において自分について語ることを通して、まず自分自身が人々の間に現れてくる。

 しかし、現代に生きる私たちは「語れなさ」を生きている。「言論なき生活、活動なき生活というのは世界から見れば文字通り死んでいる」といったアーレントにいわせれば、私たちは死んでいる。私たちはいかにして語れるか。そもそも、〈自分の言葉で語る〉とはどういうことか。

 フェリックス・ガタリは垂直型でも水平型でもない〈横断性〉というコミュニケーションを導入した(『精神分析と横断性』)。ガタリはそれを、超自我の受容与件が修正されることだといっている。どういうことか。

 精神病院において、精神病院の超自我、あるいは医師や看護師、患者の作る集団の超自我があるとしよう。彼らはその役割や立場において、理想的とみなされたり禁止されたりする振る舞いや発言が超自我によって規定されている。超自我を修正する、つまり、コミュニケーションを解放するとは、使うことを許されなかった言葉、使えるとも思っていなかった言葉で話すことが可能になるということである。それと同時に、言葉が伝達される回路を解放するということでもある。

『現代思想 八月号「コミュ障」の時代』
発行:青土社
発行年月:2017年8月1日


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2017/09/05
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2017/09/03
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2016/11/19
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