2017年09月25日
『世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌』
『岸辺の旅』で脳裏について離れない浅野忠信のパッと消えるラストについて、蓮實重彦は次のように指摘している。「生きていない人の影」の「出現と消滅」は黒沢作品の主要テーマであるが、それまでの作品と比べて、「きわめてぶっきらぼうに、いるものはいる、いないものはいないという描き方」だと。その「ぶっきらぼう」さに観る者は不意打ちをくらうわけだが、同時にそれは極めて初源的な映画技法でもある。このインタビューでは、それが秀でた役者との共犯によって初めて可能であったことが明かされる。
黒沢によれば、似たような演出をした『ダゲレオタイプの女』のフランス人の俳優は戸惑いを見せたのに対し、浅野も妻役の深津絵里もそのことにまったく動じることなく、黒沢はそのことに心強い思いをしたという。
黒沢 考えてみれば確かに、「カットが変わるといる/いない」というのは現実世界の人間の生理からすると奇想天外な、理解しがたいことなんですね。今回はいわゆるホラー映画ではなく怖がらせる必要がないので、実に素朴に乱暴に、「この人はカットが変わったら突然いる、また突然いなくなる、そういう存在なのです」ということでお願いしました。そして浅野さんも深津さんも何の問題もなくやってくれた。
蓮實 特に最後の浜辺のシーン、浅野さんと深津さんが顔を寄せ合って、カットが変わってちょっと画面が引くと浅野さんがもういない、「ああ、いなくなった」と意味は分かるわけです。でも今までの黒沢さんだったら、デジタルの効果で次第に薄くなって消えるといったことをなさっていたはずで、それをやらない黒沢清というのはいったい何だろう。今までの映画から考えると大胆な飛躍ですよね。
黒沢 今回に限りそれをやっていいという、確信に近い気持ちがありました。ジャンルとしてのホラー映画ではないことに加えて、普通に生きている生身の俳優が、そのまま普通に死者でございといっている前提があるわけですから、出現の仕方や消え方もこれぐらいがちょうどいいんじゃないかと思っていました。
この表現をどうするかと考えた時に、その人が「いるカット」と「いないカット」を直接つなげることを一つのルールにしました。よくあるのは、「いるカット」の後に全然別のカットが挿入され、次に「いないカット」というやり方で、その方が無難なのですが、今回は別のカットを入れない。「いるカット」を、ちょっと引いたり角度を変えた「いないカット」に直接つなげています。
(205〜206ページ)
この「手法」を、かつて学生時代の8ミリ自主映画で目にした覚えがある。それは映画の基本的な技法のカットつなぎについて経験が浅いが故の偶然の産物であった。それを観た(観させられた)者は、多少居心地の悪い思いをしつつ苦笑いするという反応を余儀なくされたはずだ。『岸辺の旅』では、それをここぞとばかりに効果的に使っている。
目下上映中の最新作『散歩する侵略者』をめぐる対談で、黒沢映画ファンだという宮部みゆきは、宇宙人に乗りうつられる夫(松田龍平)を案じる妻役の長澤まさみが、「悲しいし、いらだつし、情けないし、でも見捨てられないし、と逡巡する女性」を見事に演じているとして共感を寄せている。それに対し、黒沢は長澤について、「非常に生々しい演技のできる方」とした上で、「ただ彼女は本当に美しい人なので、本人はそう演じていても、他の人と並んでしまうと全然一般の人には見えないという、ある種の弱点があるんですね。でも彼女はそれを見事に克服しつつありますね」と評価している(26〜27ページ)。「散歩する侵略者』はまさにその「克服」ぶりが観る者に新鮮な感動を与える作品でもある。それと相乗効果を奏す松田龍平の淡々ぶりも同じくらいすばらしいのだが。
『世界最恐の映画監督 黒沢清の全貌』
編者:「文学界」編集部
発行:文藝春秋
発行年月:2017年が8月30日
2017/09/23
映画的な衝撃を受け笑ってしまうショットの数々。冒頭からして凄まじく笑える。『Seventh Code』のラストショットから始まるのか、まさか!?という驚き。 長澤まさみの総体がよい。松田龍平の淡々ぶりがよい。いつものように不意に上手からインする笹野高史はもはやお約束の境地か。 黒澤作品ではお馴染…
2017/09/22
けったいな映画だ。いや、映画はけったいだ。いやいや、黒沢清の映画はけったいだ。ゆえに、黒沢清はけったいだ、とはならない。たぶん。 どうして冒頭からいきなりロシアなのか。前田敦子の入り方があまりにも乱雑ではないか。それはそうと、前田敦子がガラガラひきずるキャリーバッグが重そうでうっとりして…
2016/07/08
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Posted by 24wacky at 20:52│Comments(0)
│いつか観た映画みたいに