2008年05月02日

「相棒ー劇場版ー」

「相棒ー劇場版ー」を観た。

ロードショー公開初日に映画を観にいくなんていったいいつ以来だろう?テレビ朝日版を楽しみに観ていたのは、そこにとっくの昔に灯りが消えたはずの「映画屋さん」たちの怨念のごときものが造り上げた、テレビ画面に映し出される奇妙なズレを毎回確認したい欲求にかられていたから、ととりあえずいっておく。

「相棒ー劇場版ー」そしてその古典的過ぎる刑事ドラマがシリーズ化され、確実に支持を得、「劇場版」が公開されたというのは、やはりひとつの事件である。その事件に立ち会わないわけにはいかない。

テレビ画面を観るときに感じたズレの正体は、本編がスクリーンに映し出されるやいなや判明する。それは80年代以降「孤高の」(とあえていってしまおう)プログラム・ピクチャー監督である、そしてかつて「ピンクの巨匠」と、ある狭い世界で呼ばれた男を父親に持つところの「映画屋」が撮る、安定した暗さという彼の持ち味に他ならない。

その暗さのトーンによってか「映画女優」と化してしまった木村佳乃に、私は確実に萌える。それはテレビドラマにおいてはおよそ不可能な詐術である。このことひとつとっても、映画がこの世界=私にとって不可欠であることを今更ながら教えてくれたスタッフたちに畏敬の念さえ覚える。

そしてもうひとつ。この映画は私が東京と呼ばれる故郷ををいったん離れた理由を証明=照明してくれる。「いったん」と思わず書いてしまったのは、今日の映画体験がここで一つの転回点を私に促しもしたからだ。そう、これから私は、この5年間意図的にあまりに遠く離れてしまった「そこ」を、いや「そこ」に繋がっている「私」を care していこう。そうすることが今の私の危機的状況から回復する手立てだと目して。

さらにもうひとつ。私はまさに思い出してしまった。それは、「劇場版」の監督の父親「ピンクの巨匠」が後ろにつきつつ、巨匠からは年の離れたパートナーでありピンク女優出身の女性監督の「喪服もの」が、その80年代終わりに、同時に昭和の終わりに撮られたピンクの作品が、私が実写の、そして成人映画編集者として任された初めての映画だったこと。そして東映加工での初号後の居酒屋でささやかに行われた打ち上げでの出来事。

当時のピンク映画では女優が3人出ることがお約束であった。そしてアダルトビデオの浸透、浸食により、「女優」もそこから侵入していた。この映画も2人がアダルト女優であった。残る1人がそうでない「女優」だった。

打ち上げの席で言葉を交わした時、彼女は「和泉聖治監督の2時間ドラマにチョイ役で出させてもらう(あるいは出た)」といっていた。その繋がりでそのピンクに出たのだろう。

その時私の勤めていた編集プロダクションの社長、かつてキャメラマンだった彼が私に言った。「女の魅力はあご、鼻筋を下から写したときが一番だ。確かめてみろ」と。そして、この女優に膝枕をさせてもらい、そこから彼女の顔を見上げてみろと。

私はそうした。

最近私はある経験をした。それ以来それは私にとってフェチズムとなって妄想の中で繰り返し反復される。まさしくそれこそあご、鼻筋を下から覗き見た一瞬という現実であった。それは、あのどうしようもないプロダクションの社長、大法螺吹きでワンマンの、あのどうしようもない経営者が私に伝えた真実であったのだ!彼の人生の中で、その「角度」はうそのない世界であったのだろう。そう思うと20年経過して思いがけなく彼に触れた気がした。

あの時70近かった孤独な男はもうこの世界にいないかもしれない。あご、鼻筋を下から覗き見させてくれた女優はどこでなにをしているにしてもとにかく生きていてほしい。そして35フィルムをスティンベックで繋ぎ合わせ、好き勝手にカッティングさせてもらいながら完成させた「喪服もの」のプリントは、やはりジャンクになってしまったのだろうか?そんなつれづれなる思いを今宵こそ remember to remember 思い出すために覚えておこう。


初日、大盛況だったようだ。そんなことが素直にうれしい。


タグ :相棒

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この記事へのコメント
行ってきました。やはり、満員でした。映画館はじまって以来とか・・私のとなりに座っていたおじいさんは、家族で来ていたようですが、40年ぶりに映画館にきたよと・・・
私も、久しぶりに・・・このブログの影響ですた(^^)
ありがとうございました。
ただ、どのくらいの人が「5年前に国によって見殺しにされた男」のことをイラクの香田さんと連想できたのだろうか。私はそう思いました。外務省の闇も・・・
Posted by ブーゲンビリア at 2008年05月06日 08:50
ブーゲンビリアさん

映画館に足を運んでいただきありがとうございます(って私がいうのも変)。40年ぶりに観に来たおじいさんはご家族に誘われて、ということだったのでしょうか。

>ただ、どのくらいの人が「5年前に国によって見殺しにされた男」のことをイラクの香田さんと連想できたのだろうか。私はそう思いました。外務省の闇も・・・

国(民)によって見殺しにした、その国民は我々ですよね?という問いかけに、それでもまだ他人事として捉える人もいたでしょうね。満員になるほどの映画を観に来るマジョリティというのは得てしてそういうものだろうから。でもそこの少ない可能性、希望みたいなものに、遅れてきたプログラムピクチャーの映画屋は賭けたのではと思います。単館系でかかる「社会派」映画とは違った伝え方で。
Posted by 24wacky24wacky at 2008年05月06日 11:12
なるほどお〜・・
まるでオーマイとか言うネット新聞みたいですね(^^)

ところで目取真俊さんのブログ発見。さっそくコメントしてしまいますた。読みごたえありますね。私もまじめにやらなくちゃ・・反省・・ではまた。
Posted by ブーゲンビリア at 2008年05月06日 20:55
またオーマイネタですか(笑)。
Posted by 24wacky24wacky at 2008年05月06日 21:59
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