2011年03月29日

放射性廃棄物とは

引き続きNAM環境系MLへの投稿過去ログから。

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『原子力発電で本当に私たちが知りたい120の基礎知識』 広瀬隆 藤田裕幸著(東京書籍 2000年)

第2章 核燃料サイクルと放射性廃棄物の行方


29 「再処理」の世界の動向

 原子炉から取り出された使用済み核燃料中のプルトニウムとウランを取り出す化学処理を、「再処理」という。

 商業用再処理工場は、アメリカ・ドイツが断念し、日本にはフランスをモデルとして東海村に小規模工場が建設されたがトラブル続きで、97年3月11日の低レベル放射性廃棄物のドラム缶爆発事故以来、2000年9月現在まで操業を停止している。

 2000年まで、フランス(ラ・アーグ工場)とイギリス(セラフィールド工場、旧ウィンズケール)だけが本格的な商業用再処理工場を運転し、各国の使用済み核燃料を受け入れてプルトニウムを抽出してきたが、日本と並ぶ最大顧客のドイツが、両国に委託してきた再処理は国策として放棄され、また、ヨーロッパ全土が契約解除に動き出した。

 日本が委託してきた再処理も後数年で終わるため、フランスとイギリスが再処理工場を経営するための資金は全く見通しが立たず、将来の操業は事実上不可能となり、増殖炉の断念に続いて、世界中はすでに再処理からも撤退する方向に大きく歩みだしている。

 それでもなお日本だけは、2005年から六ヶ所村で再処理工場の操業を開始するという計画が、行政の机上では生き続けている。


30 再処理のプロセス
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31 再処理の危険性

 再処理には、以下のように大きな技術的問題がある。

1)大地震による貯蔵プール破壊--その場合には、水抜けによって燃料が水から顔を出し、熱崩壊のためメルトダウン事故を起こす可能性が高い。また再臨界事故を起こす危険性もある。96年末に完成した現在のプール容積は、燃料棒集合体にして最大1万2千2百28体の貯蔵が可能といわれ、満杯時には10万キロワット級原子炉15基分ぐらいの使用済み核燃料が収納されるため、想像を絶する事故になる。

 なお、六ヶ所村の再処理工場が実際には運転されない可能性も高く、その場合には、このプールが日本最大の使用済み核燃料中間貯蔵施設に化ける恐れがある。

2)核燃料を硝酸で溶解する行程
 ・使用済み核燃料は、極めて放射能の強い状態にある。これを強酸の熱硝酸で溶かそうとすると、溶解槽の金属に腐食が進行しやすい。そのため、溶解槽の穴あき事故が多発してきた。穴あき事故は、そのまま放射能漏れにつながる。
 ・分離工程では、全行程が爆発しやすく、アメリカ・ロシア・イギリスでは、たびたび化学爆発事故を起こしてきた。

3)再処理工程で、化学的にもっとも不安定な状態が、死の灰を溶解した硝酸溶液である。この溶液は、後に高温度のガラスに溶かし込んで固め、ガラス固化体とするが、その固体になるまでは、高レベル廃液として最大の放射能をかかえたまま、厳重に管理されなければならない。フランスやアメリカの事故例を見れば、高レベル廃液タンクがいかに危険かがわかる。


32 再処理の現実
33 再処理が生み出すもの

 六ヶ所村の巨大再処理工場は、フル操業した場合、年間800トンの使用済み核燃料を再処理する計画である。2000年時点で、日本全土の原発51基から生み出される使用済み核燃料は年間1000トン前後であるから、その放射能の8割を一カ所に集めて扱うことになる。

 科学プロセスは複雑で危険であるため、多数の液層と長大な配管から放射能が漏洩することは避けられず、原発のほぼ200倍の規模で、日常的に放射性物質を排気筒と排水溝から排出する。放出される放射能は、法律上許容される年間管理値として定められているが、原発で放出してはならないプルトニウムなど(アルファ放射体)が、再処理工場では年間96億ベクレルも放出可能である。放射性のクリプトンやキセノンなどの希ガスは、東海第2原発の1400兆ベクレルに対して、六ヶ所村再処理工場ではその約236倍の330000兆ベクレルを放出し、放射性水素のトリチウムは、液体で18000兆ベクレル、気体で2000兆ベクレルを放出してよいことになっている。

34 再処理時の臨界事故の危険性は
35 再処理時の安全性のデータは
 
 Q:六ヶ所村に建設中の再処理工場を運転する臨界防止条件について、信頼性の高い、いかなるデータが日本にあるのだろうか。

 A:臨界反応を左右する因子は、容器の形状、ウラン濃度、温度、気泡の量、流動状態、圧力などかなり多く、日本にはこうした複雑系の全ての臨界因子を説明できるデータは存在しない。


36 臨界事故の可能性は他にはないのか--東海村と人形峠
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37 再処理工場のコスト

 高速増殖炉の実用化と同様、六ヶ所村再処理工場の実用化の見通しも先送りされ続け、当初予算では、7600億円で建設できるはずだったはずが、兵庫県南部地震後に急いで耐震性が見直され、2倍以上の1兆8800億円に膨らんだと見る間に、99年にはさらに2兆1400億円まで安易に増額された。実際に操業しようとすれば、さらに増えるだろうといわれている。


38 プルサーマル・再処理の計画が撤回されない理由は

 プルトニウムの生産・利用計画は、95年12月8日の高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム火災事故から破綻が始まった。この事故のため、高速増殖炉の見通しが立たなくなり、プルトニウムを生産する理由を失って、事実上は、六ヶ所村の再処理工場を運転する目的が自然消滅した。

 常識的に考えれば、これで六ヶ所村の全計画は無に帰したはずである。ところが、それでは困る事情が電力会社側に存在した。

1)フランス・イギリスとの再処理委託契約によって、海外で取り出されたプルトニウムと高レベル放射性廃棄物は日本に返還される約束になっている。このうち後者の廃棄物は、「もんじゅ」事故の約7ヶ月前から六ヶ所村の貯蔵庫に搬入が開始され、返還を停止することは契約上、不可能である。海外から返還される高レベル廃棄物を搬入するためには、どうしても「六ヶ所村は核燃料サイクル基地である」という看板を下ろすことができない。

2)日本全土で運転中の原発は、現地にある使用済み核燃料プールが満杯に近づきつつあり、全国平均ではほぼ数年でパンクしようとしていた。これらのプールから使用済み核燃料を取り出す送り先は、海外契約の全量7100トン分が輸送完了した現在、六ヶ所村の再処理工場しか存在していない。しかし、再処理工場に建設された巨大プールには(前述のように、増殖炉の破綻による再処理工場運転の動機の喪失によって)、全国からそこに使用済み核燃料を送る理由が成り立たない。したがって原発の運転を続行するには、ここでも、絶対に「六ヶ所村は核燃料サイクル基地である」という看板を下ろすことができない。

 こうして、二つの理由から、「六ヶ所村は今も必要な核燃料サイクル基地である」とうまく説明するシナリオを再構築する必要に迫られた電力業界は、増殖炉から急いで方針を切り替えた。それが、97年はじめに打ち出された、高浜原発と福島原発と柏崎原発を皮切りに、プルトニウムにウランを混ぜて使う「プルサーマル計画」であったのだ。 

 これによって、返還プルトニウムと高レベル廃棄物と使用済み核燃料という3つの放射性物質、全て六ヶ所村に持ち込む(表面上の)理屈を説明でき、それによって、当面は原子力発電所の運転を続行できる、という目算である。

 そのプルサーマルを正当化するため、前述の通り「プルトニウムはリサイクルせず、核兵器原料プルトニウムも消化できない」にもかかわらず、「プルトニウム資源の有効利用」(リサイクル)、「核兵器原料プルトニウムの消化」などといった、極めて苦しいPRが大々的に展開されることとなったのだ。

(しかしエネルギー革命と電力自由化の前に財政苦境の電力会社が、これ以上、無用の資金を再処理工場につぎ込むことはあり得ない。電力会社の経営を側面から支えてきた国家金融機関も苦しく、国と地方自治体あわせて600兆円の借金を抱えて2000年度を迎えた。電力会社を救うどころではない。六ヶ所村への融資が切れる日がやってくるのは、時間の問題である。六ヶ所村の再処理工場は、膨大な死の灰をかかえたまま操業されない可能性が高い---このように著者は推測している。)

(つづく)



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