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2011年04月04日

放射性廃棄物の行方 その3

引き続きNAM環境系MLへの投稿過去ログから。

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『原子力発電で本当に私たちが知りたい120の基礎知識』 
広瀬隆 藤田裕幸著(東京書籍 2000年)


第2章 核燃料サイクルと放射性廃棄物の行方


55 高レベル廃棄物処分の法律案の問題点

 膨大な問題を抱えた高レベル地層処分に対して、2000年3月14日、いかにして作業を進めるかという具体的スケジュールを定めた法案が閣議決定され、5月31日に国会で可決、成立した。それが、通産省作成の「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律案」であり、最終処分場をどこに決定するかという国家的作業が、2000年から本格始動した。

 この法案の問題点は以下の通り。

1)名称の問題

2)住民への配慮がない→処分する側の一方的な作業手順を定めただけで、住民側の安全をいかにして守るかという規則や罰則が、一つも定められていない。

 アメリカの「核廃棄物政策法」では、高レベル廃棄物の処分によって周辺住民に放射能汚染などの危険性が及ばないよう、「最終処分適地としての科学的条件」と「最終処分不能に該当する科学的条件」を、水質汚染・断層の有無・地質などに関して明確に定めている。

 ところが日本のこの法律は、そうした除外の科学的条件を数値によって定めず、いかようにも恣意的に解釈できる表現を用いて、内容を曖昧にしている。

 これでは、候補地の選択について周辺住民が疑問を抱いた場合に、「安全」を主張する処分者との間に科学的な議論をすることができない。つまり、、国の実質的な代理人である「原子力発電環境整備機構」が勝手に選択した場所を、一方的に判断し、住民に断りなく勝手に最終処分場にしてよいことになる。
 (※法律である以上、「最終処分適地としての科学的条件」と「最終処分不能に該当する科学的条件」を明確に定めなければならない。現在その数値を定めることができないほどの廃棄物処分研究データしか存在しないなら、こうした法律を定めること自体が誤りである。)

しかも通産大臣の命令によって、他人の土地に立ち入って標識を設置したり、測量、樹木の伐採、障害物の撤去などを、処分者が実行できるとしており、処分組織が起こしうる無法行為から住民を守るための規則と罰則が、実質的には何一つ定められていない。

3)処分決定の責任者が処分時に不在である

 最終処分場の操業は2030年から開始される。ところが30年後には、この危険な処分法を決定した責任者が誰ひとり高レベル廃棄物を管理する責任者ではなくなっている。 (※官僚は数年ごとの人事異動で、あらゆる問題でたらい回し・先送り行政に明け暮れてきた。処分場閉鎖の責任者が誰であり、いかなる形で責任をとるかを、法律で明確に定める必要がある。)

 処分に直面するのは、子や孫の世代である。
 放射能の寿命から考えて、高レベルの安全性は10万年間保証されなければならないが、保証する人間の寿命は100年もない。処分した民間会社は100年後には存在せず、国家が責任をとるにも、100年前の政府がした最終処分に対して、100年後の政府が責任をとるはずはない。

 したがって、今日通産省及び科学技術庁の官僚によって一方的に進められている高レベル廃棄物の処分計画自体が、倫理的に許されないことである。
 (※この法律案では、高レベルを深い地層に処分し、手放してしまう方法だけが唯一の「放射能の管理法」と考えている。ところが世界的には、ドイツ・アメリカをはじめ、大勢はこのような地層処分を断念する方向に移行しつつある。つまり、再処理せず、地上やごく浅い地中で埋めずに「使用済み核燃料」として管理し、万一に備えて取り出しできるようにしておく方法である。これで放射能問題が解決するわけではないが、少なくとも地底で手放してしまう無責任な方法ではない。)

4)最終処分所の選定が47都道府県に対して不公平で、科学的根拠に乏しい
 
 
56 使用済み核燃料の量
57 使用済み核燃料の現状

 97年に資源エネルギー庁の総合エネルギー調査会原子力部会から出された報告書で明らかになった事態→日本中の原子力発電所では、プールに使用済み核燃料があふれていた。→2000年時点でも、それは解消されていない。

 原発の貯蔵プールは「一時的に」貯蔵するためのものなので、2~4年分の貯蔵量しか設計されていなかった。これまでは、プールに一定の使用済み燃料がたまると、海外で再処理するために運び出されてきた。しかし、海外との再処理契約分が98年度に全て輸送を終了した。

 一方、それまでに六ヶ所村の再処理工場が完成し、そこの貯蔵プールへ運び出す予定になっていた。しかし日本全土で原発の事故と不祥事が相次いだため、六ヶ所村再処理工場への持ち込みが遅れ、原発に使用済み核燃料があふれることになったのである。


58 破局を回避するために考え出した三つの方法

 あふれる使用済み核燃料の対策として、主に3つの方法がある。

1)高密度貯蔵(リラッキング)→各地の原発では、これまで使用済み核燃料を入れていた容器(ラック)を改造し、燃料の間隔をこれまでの40センチから30センチへと狭め、容量を1.7倍にする方針を採用することになった。→再臨界の問題、冷却の問題がある。

2)乾式貯蔵→これまで電力会社は、強い放射線、とりわけ中性子線を防ぐため、冷却水を循環させる貯蔵プール方式(湿式)を原則にしてきたが、不安定なプールに代わる方法として、すでに92年から乾式貯蔵の検討を進めてきた。この方法は、ドイツをはじめとして、今後の主流になると見られている。乾式貯蔵では、使用済み核燃料の輸送容器(キャスク)と同じような、巨大な金属製の円筒容器に入れて貯蔵する。
→貯蔵容器の問題、冷却の問題がある。

3)巨大貯蔵プール新設→原子炉の運転を続けるため、これまでの原発の格納容器内プールではない場所に、巨大プールを建設する計画がある。

a. すでに完成した六ヶ所村の再処理工場プール。
 
b. 福島原発のように、敷地内に「共用貯蔵プール」を建設してしのぐケース。→しかしここでも再臨界と冷却の問題がある。さらに、共用プールでの最大の問題は、原発に隣接して、敷地に穴を掘って建設されていることである。 

c. 六ヶ所村でも原発敷地でもない、全く新しい地点での「中間貯蔵施設」の建設。


59 中間貯蔵施設という名の最終処分場

 高レベル処理が不能となる将来を見込んで、日本政府は99年6月9日、使用済み核燃料の「中間貯蔵施設」を新設できるよう、急いで「改正原子炉等規制法」を参院本会議で可決・成立した。(2000年6月試行)

a. 中間貯蔵の期間
 中間値は、どれだけの期間か定義されていない。つまり、「中間」ではない。地元は、その管理をほぼ永遠に続けなければならない。

b. 候補地
 この施設の建設場所は、同法によれば、47都道府県のどこでもよいとされ、これまでの原発現地ではない場所が物色されている。しかし現実的には輸送効率上、原発現地からさほど遠くない地域が選ばれると考えられ、原発と中間貯蔵施設が一対となって、原子力発電所とほぼ同じ数だけ保管場所ができると推測される。
(※それでも、三重県の芦浜原発計画が、37年の反対運動の結果、2000年2月に計画を白紙撤回に追いやった社会状況、および電力自由化とエネルギー革命の進行速度から、これら中間貯蔵計画も早晩破綻する。鹿児島の誘致活動の場合も、2000年3月には、西之表市長が直ちに市議会で「誘致反対」を表明し、屋久島の屋久町議会が「反対決議」を全会一致で可決するなど、地元は一斉に反発している。)

<<(注)鹿児島県・種子島の西之表市の無人島(馬毛島)への中間貯蔵施設誘致活動に反対する運動の経緯が、星川淳さんの著書「屋久島水賛歌」(南日本新聞社)の第6章「原子の火を見つめて」の後半で描かれています。>>


60 廃棄物管理の原則

この『原子力発電で本当に私たちが知りたい120の基礎知識』の著者は、放射性廃棄物管理の原則を以下のように提起している。

1)原子力発電所を可能な限り早期に停止して、処分不能な放射性廃棄物をこれ以上生産しないこと。

2)すでに海外で製造された高レベル廃棄物は、国民的な議論のもとに、47都道府県の電力消費量に比例して、公平に負担・管理すること。

3)すでに海外で製造された高レベル廃棄物を、見えない場所に埋め捨てることは許されない。発生者である電力会社の責任において自社内で地上管理すること。

4)運転中の原発から発生した使用済み核燃料は、放射性廃棄物とプルトニウムを増やす再処理をおこなわず(これは、燃料を一回だけ原子炉のなかを通して終わりにするという意味で、業界で「ワンス・スルー」と呼ばれ、世界的な動向となっている)、国民的な議論のもとに、47都道府県の電力消費量に比例して、公平に負担・管理すること。

5)全ての放射性物質は、最低限、掘り出したウランと同じ放射能レベルに下がるまで、発生者である電力会社が放射能をモニターしながら、責任を持って管理すること。(なぜなら、1984年以来、放射性廃棄物の処分には問題がないと、誤った主張・PRを展開してきた責任者は、電力会社だからである。)


61 これからの原子力産業
<<略>>

(了)



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