2016年09月23日

『郡上の立百姓』

『郡上の立百姓』

 幕開け。舞台をほぼ独占するように中央に設置された円形の回し舞台を囲むように、5人の農民コロスが状況を説明する書き下し文を発語する。ユニゾンであることもあり、意味内容を正確に聞き取ることが難しい。しかしそれはこれから始まる劇団員全員参加の群像劇のダイナミクスを感受する妨げにはならない。「身体で受け取れ!」という無言の挑戦状を観客は自覚する。

 定免取(毎年決まった量の年貢を納める制度)から検見取(毎年の収穫に応じ年貢を納める制度。検知のやり方次第で割増になる)に変わると聞かされ、自分たちにとって生死の問題だと危機感を覚えた郡上の農民たちが対応を話し合い、頭領の一人定次郎を主に直訴することを決めるまでの過程を前半は丁寧に描く。百姓たちそれぞれの個性がテンポよく表現され、立百姓(検見取に反対して立ちあがる百姓)が生成していく様に観る者は立ち会う。

 休憩明けの後半は、徐々にクライマックスへと登りつめる速度が増す。それは権力が抵抗する者たちに容赦なく下す暴力というアクション劇への上昇と下降の運動として描かれる。鍬や鍬で応じる百姓たちの抵抗虚しく刀の力は血を奔出させる。一人の百姓が痛めつけられた身体を農具で支えながら罵りと口惜しさと憤怒の声を上げる。真の意味で抵抗が始まる瞬間である。

 ラストでは、獄門に晒された定次郎の生首を前に、一人娘きよを抱きかかえる妻かよがやがて黙々と踊り始める。それにつられて百姓たちもいっせいに踊る。かよのしなやかな踊りは困難があっても耐え忍んでしまう忍従の身体表現だろうか。それとも来たるべき新たな抵抗の意思表示だろうか。言葉を換えれば「保守」か「革新」か。百姓たちの決め台詞「だちかんのや!」はわたしたちの持つ二局面の双方に対し、ことあるごとに挑発的に発せられるだろう。

青年劇場第115回公演 『郡上の立百姓』
日時:9月22日
場所:紀伊国屋ホール
作:こばやしひろし
演出:藤井ごう




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