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2019年08月19日

ニューヨーク公共図書館と米国の本をめぐる多様な取り組み

 ドキュメンタリー映画『ニューヨーク公共図書館』の国内ヒットを受け、映画以前にいち早く同図書館の魅力を伝えた『未来をつくる図書館 ─ニューヨークからの報告─』の著者で米在住ジャーナリストの菅谷明子さんによるトークイベント「ニューヨーク公共図書館と米国の本をめぐる多様な取り組み」が18日、国立本店にて開催され(主催は「ほんとまち編集室」)、満席になった参加者は熱心に耳を傾けた。以下、個人的な関心から要所をまとめてみた。

菅谷明子さん

 まず、ニューヨーク公共図書館は本のみを扱う場所ではなく、くらしそのものに情報が重要であるという認識があり、そのためのサポートとしての役割が基本にあるという点が挙げられる。アメリカ人の多くは自ら情報を取りに行く習慣があるため、個々のニーズごとの窓口が存在するということになってくる。

 就職・起業・ビジネス支援は、あくまでコストと利益を考えて、公金と民間資金から投資を引き出す。アーティストを支える舞台芸術図書館では、情報は文字だけでなく映像や音声がメインとなる。このあたりは映画でも詳しく描かれていて、「え、こんなことも図書館で?」という驚きのリアクションとなる。

 情報リテラシーの育成については、情報を加工しアウトプットすることの重要性が、それに乏しい日本との比較において語られた。

 また、物理的空間に集う意義として、アメリカではもともと読書会が盛んであり、後半の質疑で紹介された「one city one story」という、一つの街で一冊の本を市民が読む試みや様々なブックフェスが行われるという。

 菅谷さんが強調したニューヨーク公共図書館の強さとは、「最も強い者が生き延びるのではなく/最も賢い者が生き延びるではなく/唯一生き延びるのは、変化できる者である」というダーウィンの言葉にある、変化を厭わない精神である。日本人は何かと定められたルールを守ることに従順だが、アメリカ人にとって、ルールはその時々の状況に応じて変えていくものである、と。

 時間がじゅうぶん設けられた後半の質疑応答では、中身の濃いやりとりが生まれた。

 そもそもこのような図書館が成り立つには、幼少時からの教育が日本とは異なる。active readingといって、とにかく本を読む習慣をつくる。事実と意見を分けること、証拠はどこにあるかを意識すること、批評的に読むことなどが徹底される。

 「出版社との関係はどうなのか?」という質問に対しては、いかに本を読む層を育てていくかで利害が一致するため、関係は良好だという。出版社にとって、図書館利用者は潜在的な顧客でもあるのだ。

 「どうすればコミュニティのニーズをつかむことができるか?」という図書館司書の方からの質問に対して菅谷さんは、「図書館の外に出てアウトリーチすること」と即答。たとえば、休日を利用してアウトリーチに出かけ、後日上司に報告してみるところから始めるのはどうかと具体的なアドバイスをした。

 個人的には、「これをやったことで結果、何が変わるのかを明確にすること」という菅谷さんのメッセージが、「ニューヨーク公共図書館的ななにか」に至る、遠くても確実な道となるのではないかと感じた。

 なお、アップリンク吉祥寺で映画『ニューヨーク公共図書館』20日(火)12時50分の回の上映終了後、菅谷さんのトークショーが予定されている。


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