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2009年08月22日

琉球王国の測量技術と遺産「印部石」

1609年に琉球王国を侵攻した薩摩藩が「慶長検地」を行い石高を定めた後、首里王府は1735年から1750年にかけて自主的に検地を実施した。これを「乾隆(注1)大御支配」(けんりゅうのおおごしはい)といい、その際に用いられた図根点(基準点)を「印部石(シルビイシ)」という。これに関連した企画展「琉球王国の測量技術と遺産 ~『印部石(シルビイシ)』~」(8月7日~31日)が那覇市のパレット市民劇場で開催され、19日には同タイトルのシンポジウムが行われた。この中から安里進沖縄県立芸術大学教授の講演(「印部石から地図製作そして首里那覇鳥瞰図まで」)を中心にレポートする。
 
琉球王国の測量技術と遺産「印部石」

近世琉球の測量技術の特徴は、測量図根点である印部石のほかに、独特な分度法と角度表記の解読、それに独自の測量器と近代的測量術による「間切(注2)島針図」の製作などが挙げられる。

琉球王国の測量技術と遺産「印部石」

そもそも日本の検地というのは、農業生産の実態を調査して徴税の基礎資料を作ることを目的とする。具体的には縦×横の求積方法である十字法で田畠を測量する大づかみのものである。これに対し乾隆検地は間切島単位を対象とし、近代的な測量技術を駆使した精度の高いもので、さらに地図を作成し、国土の実態把握を実施した。その測量は、田畠の面積を対象とする「竿入」測量、田畠山野屋敷の境界線、杣山(注3)境界線、間切境界線、海岸線、道路、河川、施設(番所・樋川・橋梁・馬場・寺社・壺瓦屋敷ほか)を対象とする「針竿」測量に分けられる。測量隊は2~4人一組で、1間切島に2~5組を投入した。
 
その精度の高さは各間切島に印部石のネットワークを設置したことで可能となった。一つの間切島に200~300の印部石を設置し、その間の方角と距離を測量し、そのデータを「印部土手台帳」に記録したと考えられている(台帳は現存しない)。
 
このような測量成果をもとに、間切・島ごとに一分五間縮尺の針図が作成された。これらの多くは沖縄戦で散逸してしまったが、最近「真和志間切針図」の一部のモノクロ写真が発見された。安里氏はこの精度を検証するために数か月を要しながらパソコンによるトレース作業を試みた。それを拡大してみて驚くべきことは、測点や番土手そして印部石を示す黒丸点に製図の針穴があったことだ。とてつもない労力をかけて下図を一点ずつ丁寧に針でプチュプチュ突き刺して写す。正確な地図を作製しようという強い意志がそこからはうかがえる。
 
安里氏は乾隆検地における測量技術の意義として次の8点を挙げている。①近代的測量法②独自の測量技術③王府による組織的、全土的測量④測量図根点(印部石)の設置⑤高精度で詳細な地図を作製⑥測量帳簿の整備⑦再測量システム⑧東アジア最先端の技術とシステム。
 
乾隆検地はその後どのように発展されたのか。「間切島針図」は文字通り間切、島のみを描いた図面である。ということは間切島針図を縮小し合成すれば琉球全図ができる。これを実行して作製されたと考えられているのが、尚家「琉球国之図」(嘉慶元年・1796)である。
 
後半のパネルディスカッションで、安里氏は「真和志間切針図」トレース作業について触れ、「昔の人の正確な地図を作るという意志を感じた」と述べ、歴史を追体験することの重要性を強調した。
 
今後の課題としては、最先端の技術がなぜ乾隆検地に導入されたのかという問いが生まれる。これに関連して、コーディネイターの田名真之沖縄国際大学教授は、このような最先端の技術はどこから伝わったのかと問い、乾隆大御支配の中心人物蔡温(注4)を中心とするグループが中国で学んだ可能性を示唆した。
 
会場からの質問で「せっかくの乾隆検地が徴税に生かされなかったのはどうしてか?」との質問に対して、安里氏は「琉球による乾隆検地の目的は他にある。最大の特徴である印部石を設置したことで再測量が可能となった。これは土地の処分に関してなにか問題が起きた時に解決できるようにするためのシステムだ」と現時点での見解を述べた。
 
 
(注1)清の元号。中国との冊封体制を結んでいた琉球王国は元号もそれにならった。
(注2)琉球王国の行政区分の一つ。現在の市町村程度の大きさ。
(注3)森林。
(注4) 三司官に就任後、近世琉球社会の構造的矛盾の解決に当たる。特に林政・農政改革に強力なリーダーシップを発揮した。風水を琉球に広めたことでも有名。
 
【参考資料】
『沖縄の印部石』 沖縄県地域史協議会 地域史叢書 2009年8月
 
 琉球王国の測量技術と遺産「印部石」
 印部石  〈へ とゝろき原〉



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