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2019年06月10日

『オキナワへ行こう』大西暢夫

『オキナワへ行こう』大西暢夫

 6月9日多摩市民館にて『オキナワへ行こう』上映会&トークショー&写真展が約160名の参加者(主催者発表)を集め開催された(主催はNPO法人たま・あさお精神保険福祉をすすめる会)。

 同作品はスチール・カメラマンとして精神科病院の患者を長年撮影してきた大西暢夫さんによるドキュメンタリー。大阪府堺市の浅香山病院は大型の精神科病院だが、その中から数名に対象を絞り、院内の生活に密着する。

 大西さんの写真展参加を動機付けとして、沖縄旅行を計画。当初盛り上がっていた3名は医師の許可が下りず断念、2名が予定通り行くことに。自らの誕生日の記念にと提案していた言い出しっぺの女性が出発直前になって行かないと言い出し、しかし自らの不安を言語化できず身体を強張らせる。翻意を期待して寄り添う看護師がひたすら側で待つシーンにケアの本質が捉えられている。結局この女性は沖縄へ行くことに。クローズアップされた女性の美しさ。旅行中彼女の表情はにわかに豊かになっていく。

 カメラはひとりひとりへ退院の意向をそれとなく訊くが、皆、無理だと答える。長期になればなるほど、そのハードルは高くなるという悪循環。本人たちの意志だけに任せるのは無理があるように思えてならない。

 大西さんに病院内での写真展を提案するなど協力的だった師長が、長期入院についてのジレンマをこぼすシーンが印象に残る。彼女はその後病院を退職し、障害者支援施設を立ち上げる(NPO法人 kokoima)。

 後半のトークショーで、大西さんは長期入院に対する疑問が制作の動機だと語り、「患者」を社会がもっと受け入れるべきだと問題提起した。また、フロアからは、精神障害者の親の立場として、長期入院について、家族としては入院させておけば安心だという本音の発言が上がった。これに対し、大西さんは、家族だけで抱えるのは無理があり、グループホームその他受け入れ場所が増えることに期待したいと応答した。

 実はこの映画の配給をNPO法人 kokoimaが担っているという。これは障害者支援施設にとって、新しい事業のモデルケースにならないだろうか。「映画の配給」というと限定されるが、外部の協力者と連携することで、文化的なコンテンツを作っていくことは、当事者運動という側面からも可能性が感じられる。

『オキナワへ行こう』
監督・撮影:大西暢夫
劇場:多摩市民館
2019年作品


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