「癒しの島」から「冷やしの島」へ

これは柄谷行人が語った、個別社会（地域自治組織）破壊の歴史に重なる。その議論をかんたんに振り返ろう。

宮崎学の個別社会説
宮崎によれば社会には2種類ある。家族、村落、地域共同体、学校、職場、労働組合、同業者の組合、などなど様々な各種団体を「個別社会」と呼ぶ。そこで規範となるのが「掟」である。一方日本社会、アメリカ社会、中国社会などのように国民国家レベルの社会を「全体社会」と呼ぶ。そこでの規範が「法」である。個別社会は個人にとって身近で具体的、自然発生的であるのに対して、全体社会は個人にとってより疎遠で抽象的、人工的な社会である。

さらに個別社会は基礎社会と派生社会の2つに分けられる。基礎社会とは、地縁血縁など自生的に結びついた社会で、家族、村落共同体などを挙げることができる。そこでは人びとは全人格的に結びついている。もう一方の派生社会は、職場社会や学校社会のように、特定の機能を果たすために人工的につくられた社会のことをいう。ここでの人びとの結びつきは、目的指向型、機能的なものになる。

この個別社会がヨーロッパに比べ日本は弱い。なぜ弱いかというと、明治維新政権の外発的な近代化によって、さまざまな地域集団、職能集団の自治が、封建的であるからという理由で徹底的に破壊されたから。それによって個人が発達しなかった。《そうしておいて、しかし、そこから近代的な個人の結びつきが成長してくるのを待つのではなく、それまであった前近代的な形での共同的な結びつきを、個別社会にではなく全体社会の中に再編成して統合し、それを近代化のために使ったのである。》
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柄谷は、この個別社会がモンテスキューのいう中間団体、中間組織に相当するという。中間団体とは、習俗、村落など、国家と個人の中間に実在する様々な団体のことを指す。


和辻哲郎の「日本人は公共性に無関心」論
西洋では、個人は城壁によって囲まれた共同体にはぐくまれるのに対し、日本では個人は「家」の中にあり、よって公共性に対し無関心であると。西洋では家の中でも人は「公的」である。廊下などは「公的」であり、鍵のかかる部屋の中だけが「私的」である。

城壁の内部で、人々は敵に供えるため一致団結する。個人を埋没させようとするこの共同性が逆に個人の権利の意識を全面に出させる。つまり公共的なものへの関心が、個人を強くさせる。それに対し「家」を守る日本人にとって家の中が脅かされない限り、領主が誰になろうと知ったことではない。脅かされたとしても耐え忍ぶことで防いでしまう。つまり公共的なものへの無関心を伴った忍従が発達する。
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「“進歩主義者”丸山真男は実は封建主義を擁護していた」説
丸山によれば、日本の近代化が急速な進歩を遂げた秘密は、封建的＝身分的中間勢力の抵抗が弱かったから。徳川体制において、仏教団体がたんなる行政機関に成り下がり、後の明治国家が易々と教育の権利を握ることができた。それによって《自由なき平等化、帝国臣民的な画一化》が進行した。
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さらに柄谷によれば、日本の個別社会、中間勢力が滅ぼされるのは近代以降１９９０年代まで続く。たとえば、労働組合、部落解放同盟、朝鮮総連、大学（教授会）の自治。これらはメディアのキャンペーンにより封建的、不合理、非効率などと散々非難され、２０００年に消滅していた。そこに登場した小泉は中間勢力の残党を「抵抗勢力」と名指しし撲滅した。中間勢力がない社会は専制社会といえる。
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個別社会、中間団体、地域自治組織、これらは基本的に同じものを指している。柄谷と佐藤の議論をまとめ、日本の地域自治組織破壊の歴史を時系列にしてみる。

徳川時代　仏教団体がたんなる行政機関に成り下がる
明治時代　維新政権の外発的な近代化
戦後　　　GHQによる神道指令・町内会の廃止
　　　　　　昭和の大合併
現代　　　労働組合、部落解放同盟、朝鮮総連、大学（教授会）
　　　　　　の解散

つづく